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CG集とナコルル中心の創作ノベル


by nero_160r
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動き出した宿命

山の頂きはすでに雪化粧で覆われている。麓でも寒風が吹き冬の到来を告げていた。
アシリチェップノミ(鮭を迎える儀式)も終わり冬支度も忙しい日々
そんなある日、陽も傾いた頃に村の入り口に人だかりが出来ていた。
今期最後となる狩猟の為に森に出ていた一行が戻って来たのだ。
その中には、屈強に育ったテシテの姿も有った。
村の習慣で冬の食料確保の為に数回に分け5~6人が組んで1~2週間かけ森で狩りを行うのである。
食料が少なくなるこの時期、森は危険である。
特に熊は冬眠に向けて獲物を漁っている為、普段以上に危険な存在に成っている。
しかし、安全に冬を越すためには、危険を承知で狩り出ねば成らない。
極寒での餓えは、そのまま死に繋がるからだ。

今回の成果は、鹿が1頭に兎が5羽だった。
成果としては多い方では無かったが、最後としては決して少ない量では無い。
しかしテシテ達一行の疲労の色は普段よりも濃い
村人達の労いの言葉にも生返事で皆足早に自分のチセに帰っていく。

「お帰り、テシテ 今回は大変だったみたいだな。」
皆と同様に自分のチセに戻ろうとしたテシテの肩に手を置き声を掛けて来た者が居た。
肩の手を乱暴に振り払い相手を睨み付けるが、それが兄のエシテだったと気付く・・・
「・・・兄者か・・・すまん、疲れているんで一眠りしたい・・・」
エシテに対し静かにそう告げると足早に自分のチセに向かった。
そんなテシテの態度に戸惑うエシテだったが、
「一休みしたら父様のチセの来い 久々に3人で火を囲もう」
と歩み去るテシテの背中に声を掛けた。
それに対し言葉ではなく手を振って答えるテシテだった。

その夜、テシテがアガダタのチセに姿を表したのは陽も落ちてかなり経ってからの事だった。
「今回の狩猟は、かなり大変だったようじゃな」
一目で疲れが抜けきれていないと解かるテシテに対してのアガダタの第一声はそれだった。
「・・・まあな」
テシテはそう短く答え、囲炉裏を挟んでアガダタの前に腰を下ろす。
「一体何が有ったんだ? お前がそこまで疲れている所なんて始めて見るぞ
もしかして、獲物の量が少なかった事を気にしているのか?」
左隣に座っているエシテが心配そうにテシテの顔を覗きこむ。
「獲物の量は始めから考えていた量だ、問題無い。」
囲炉裏の火をジッと見つめ静かにテシテは答える。
「じゃぁ、どうしたって言うんだ。
怪我人一人出さずに戻れた事を考えると熊に襲われた訳でも無いんだろ」
テシテのはっきりしない態度にエシテは声を荒げてしまう。
確かに過去、狩猟の途中で熊に襲われ死者が出た事が有った。しかし、今回は怪我人一人出ていない。
「・・・森が・・・森が変だったんだ。」
しばらくして搾り出すような重い口調でテシテは呟いた。
「森が変?」
二人のやり取りを静かに聞いていたアガダタだったが、テシテの呟きを聞き表情を強張らせた。
「ああ、北の山を越えた辺りから急に山の感じが変わったんだ・・・
なんて言うか・・・こう、なにか邪気が森を包み込んでいるかのように空気が重く、
肌に突き刺さるような殺気が充満してるんだ。
すぐにでもその場を逃げ出したい気持ちだったよ。」
そんなアガダタの表情に気付かず、テシテは続けた。
「殺気・・・獲物を狙う動物達の物じゃないのか? この時期の動物は皆、冬に備えて必死だからな」
考え深げにエシテがテシテに問い掛ける。
「確かにこの時期の動物達は殺気だってる。けど、あれは森の動物達の物じゃない。
あの殺気は獲物を狙っている物じゃない、あれから感じるのは単に『破壊』だけなんだ。」
今度はテシテが声を荒げエシテに詰め寄る。
「おいおい、落ち着けよ」
いきなりテシテに詰め寄られ焦り気味に落ち着かせようとするエシテだった。
そこへ、
「大体の事は解かった。テシテ、チセに戻って身体を休めろ。
これから冬支度が本格的に始まる。忙しい日々は、まだまだ続くんじゃからな。
エシテも良いな。」
と囲炉裏の火をいじりながらアガダタが二人に声を掛けてきた。
「解かってる、疲れてるからってサボったりなんかしないよ。」
そうテシテはアガダタに言うと立ち上がった。
「ムシカフチがチセの修繕を手伝って欲しいそうだ。頼めるか?」
立ち上がったテシテにエシテが声を掛けた。
「ムシカフチか、解かった。夜が明けたら行ってみるよ。じゃな、おやすみ」
エシテにそう答え、テシテは自分のチセに戻って行った。
「それじゃ私もチセに戻るよ おやすみ、父様」
テシテを追う様にエシテも自分のチセに戻って行った。
二人を見送った後、囲炉裏の火をジッと見つめていたアガダタだったが
「破壊のみの邪気か・・・今年の冬は厳しく成りそうじゃな」
ボソッと呟いたその表情には、何か思いつめたような険しい物が浮かんでいた。
# by nero_160r | 2008-06-07 02:27 | 魔に魅せら者(ノベル)
私の名前は「ニタイカラペ」 
私がナコルルの守護精霊として狼の姿に成り、彼女の家族達と暮らし始めてから多くの季節が巡った。
始めの頃は、人間と暮らす事にもこの狼の身体にも戸惑いが有り色々と苦労もしたけど、今じゃまるで
生まれた時からこの姿でここに住んでいたかのように思えるほどに成っている。
でも、ナコルルの双子の姉レラには未だに慣れない。
理由は解らないけど、なんとなく私を避けている感じがして、とても近寄りがたい。
一緒に暮らしだして、すぐにその事をママハハのじいさんに言うと
『そうか、そう言う風に見えるのか まだまだ未熟じゃな』
と笑い飛ばされた。
何が未熟なのか聞いたけど、それ以上は教えてくれなかった。

逆になにかに着けてちょっかいを出してくるのが、ナコルルの妹リムルル。
コタンに来た当初、子供達は私の姿を見ると逃げるか泣くかだった。
でも、リムルルは私を恐れることなく普通に接してくれた。
リムルルと遊んでいる私の姿に安心したのか、他の子供達も私を怖がることも無くなった。
その時は、本当に感謝した。
でも、季節が巡って大きくなったリムルルを見てふと思った・・・「彼女にとって私は子分?」と

ナコルルやレラは巫女見習として母親の手伝いで出かけることが増え、必然的に私とリムルルが二人で
お留守番と言う事が多くなった。
『少しでもみんなの役に立ちたいから、晩御飯の用意ぐらいはあたしがするんだ。』
と活き込む辺りは可愛いと思うし食材探しに森へ一緒に行くのも別に構わない。
ただ、やたら変わった食材を求めたがるのと後先考えないで突っ走るのが合わさって、無事に帰って来れた事が無い
道に迷う。河に落ちる。は当たり前で、崖から落ちかける事も珍しく無いし(何回か本当に落ちたし)
熊に追いかけられた事も数回・・・
私が一緒に居たから事無きを得てるけど、リムルルは全然懲りてなく
『今度こそは姉さまに喜んで貰うんだ』
と活き込んでは森へ食材探しに出かけて行く。当然、私を引き連れて

今日は朝からナコルルもレラも母親と出かけていて夜まで帰らない。
当然のように3人を見送った後、リムルルは私を引き連れて森に出かけた。
『夜までに戻れば良いんだから、今日はちょっと奥まで行くよ』
止めても無駄なのは解かっているけど、一応止めて見た。
『解かってないなぁ
新しい食材を見つけるのに、少々の危険は覚悟しないとダメなんだよ。』
と呆れたような口調で返された。
「何も、危険を犯してまで新しいのを見つけなくても近くで取れる食材でもご馳走は作れるでしょ。
それに仮に新しい食材を見つけたとしてもリムルルが怪我したらナコルル達が悲しむだけよ」
リムルルはナコルルを心底尊敬し慕っている。だから、「ナコルルが心配するよ」と言えば引き下がる
と思ったんだけど・・・
『うっさいなぁ ナコルル姉様を悲しませる事をあたしがするわけ無いでしょ
ようは、怪我をしなけりゃ良いだけじゃない。』
とあっさり返された。
『大体、仮にってどう言う事よ。今日こそは凄いのを見つけてレラ姉様の鼻を明かしてやるんだからね
うだうだ言ってないで、さっさと行くよ。』
毎回苦労してる割には近くで取れる物ばかり・・・ナコルルはその苦労を労ってくれるけど、レラには
何時も冷たく鼻で笑われている。どうやらリムルルはそんなレラを見返したいらしい。

そんなやり取りの後、私達は森に入って行った。

そして今は見知らぬ川原にいる。すでに日は傾き夕焼けで空が赤く染まっている。
『はぁ今日もだめだったかぁ』
頬杖をついて隣に座り込んでいたリムルルがポツリと呟いた。
そう、今回の食材探しで見つけたのは、ウバユリの群生地、しかも時期的に考えても、実入りまだまだ
先なので取っても意味が無い。
「仕方が無いじゃない。そろそろ帰らないと遅くなってナコルル達が心配するよ」
今はまだ明るいがすぐに暗くなる。暗くなる前には帰り道を見つけておかないと・・・
そう思ってリムルルに声を掛けてみた。
『そうだね、姉様に心配を掛けちゃ行けないもんね。くそぅ今日もだめだったかぁ』
そう悔しそうに言うリムルルが何故か笑いがこみ上げて来る。
『何、笑ってんだよ』
笑いをかみ殺したと思ったけど、リムルルは察したみたいでジト目で睨みながら私の顔を覗きこんで来た。
「なんでも無いよ気にしないで それより、次に期待しようよ」
『そだね』
そうして私達はコタンに戻る事にした。
「・・・あれ」
コタンに向かっていると、途中から急に森の雰囲気が変わって方向が全然わからなくなった。
『どしたの?』
そんな私を察したのか、心配そうにリムルルが声を掛けて来た。
「うん なんだか森の雰囲気が変わっちゃって方向が解からなく成っちゃったの」
言ってから「しまった」と思ったけど遅かった。
『えぇ方向が解からないって、それじゃまるっきりの迷子じゃないかぁ
ニタイカラペがちゃんと帰り道を憶えてると思ってるから、安心してたのに信じらんない』
そうかぁだからあんなに何も考えないで見知らぬ森にも入って行けるんだ。と思わず感心してしまった。
「てっそうじゃ無いでしょ 大体・・・」
とそこまで言い掛けた所で前に草陰から黒い影がのそりと現れた。
はっとしてその方向に目を遣ると、凄く大きい猪がこちらを睨んでいた。
『ニタイカラペ・・・』
猪に気付いたリムルルは怯えたように私に近づいてくる。
「ガルルル」
私はリムルルを背後に庇うように前に出て、猪を威嚇した。
大きいとは言え所詮は猪、威嚇すれば引き下がるだろうと思っていた。
所がいきなり私達に向かって突進して来た。
向かって来るなんて考えてなかったから、咄嗟にリムルルを押し倒すように避けるのがやっとだった。
『いった~い いきなり何すんだよ』
いきなり押し倒されたリムルルが私に対し文句を言う・・・てか、なんでそんな余裕が有るのか不思議
あぁ今はそんな事を考えてる場合じゃない 猪が再び私たちに向かって突進してきた。
「早く木の上に登って」
リムルルにそう言うと私は猪に向かって行った。
この身体に成った時は熊を倒せたんだ、猪ぐらい・・・そう思ったから正面からぶつかって行った。
「ぎゃん」
所が吹っ飛ばされたのは逆に私の方だった。
クラクラする頭を振りながら立ちあがると、悠々とこちらを睨んでいる猪が目に入る。
その目は赤く充血し、口からは涎が垂れている。明らかに普通じゃない。
『ニタイカラペ~』
木の上からリムルルの心配そうな声が聞こえてくる。
「私は大丈夫だから、けりが付くまで降りてくるんじゃないよ」
そうリムルルに声を掛けた所に再び猪が突っ込んで来た。
まともにぶつかったんじゃ勝ち目が無い。だから今度は寸前で避け、首筋に噛み付きそのまま押し倒そうとした。
しかし、猪は噛みつかれていることなんか意に返さず私を振り落とそうと暴れまくる。
余りにも激しさに離れると、間髪入れずに突進してくる。私は同じように避け首筋に噛み付く。
何度かこれを繰り返した後、私が噛みついた時、猪は暴れず私を載せたまま木にぶつかって行った。
「ぐはっ」
咄嗟に猪の身体を蹴って飛びのいたから木に叩きつけられる事は避けられたけど、無理矢理だったから
体勢が崩れ着地が出来ずに地面に叩きつけられた。
全身に走る痛みに堪え起き上がった所に猪が突っ込んで来た。
「がっ」
今度は避ける余裕も無く私はそのまま吹っ飛ばされてしまった。
懸命に立ち上がろうとしたけど足に力が入らない、それに少し動くだけで全身に激痛が走る。
『ニタイカラペしっかりして』
そんな時、霞む目に飛び込んで来たのはリムルルの顔だった。
「リムルル・・・危ないから木を降りてきちゃ駄目じゃない ここは私に任せなさい。」
驚きながらも必死で立ちあがり、リムルルの前に出ようとしたが立ちあがるだけで精一杯だった。
『酷い怪我なんだから大人しくしてなよ 猪ぐらいあたしが追い払ってあげるよ』
引き攣った表情から強がっているのは一目瞭然だった。
『さぁ来い 何時までも守られてばっかりじゃないんだぞ あたしだってニタイカラペを守るぐらい出来るんだ』
しかも、武器らしい武器なんか持ってないから両手を前に突き出しているだけ・・・余りにも無謀過ぎる。
「だめよ、リムルル あいつは私が食い止めるから早く逃げて あなたに何か有ったらナコルルが悲しむじゃないの。」
無謀な事をリムルルにさせる訳には行かない。
『ニタイカラペに何か有っても姉様は悲しむよ だから、ここはあたしに任せなさいって
猪ぐらいあたしが本気になったらお茶の子さいさいだよ』
リムルルは振るえながらもあくまでも強気な態度を崩さない。
しかし、そんな事には関係無しに猪が今度はリムルルに向かって突進してくる。
このままじゃリムルルが危ない、お願いナコルルを助けたときの様に力を 私に力を与えて 私は心底そう願った。
不意にあの時に感じた力の流れを感じた。でも、今度は私じゃなく別の所に集っている。
『ブギィ』
力の流れを感じた瞬間、猪の悲鳴が聞こえた。
「えっ?何が起こったの」
恐る恐る目を明けて見ると、リムルルが突き出した両手の先に透明な物が浮かんでいた。
リムルルも驚いた表情をしていたが、何かに頷いている。
少しすると不敵な表情を浮かべ
『うん、解かった それじゃ行くよコンル!』
そう叫ぶと猪に向かって走り出し、まるでその透明な物を投げつける様に両手を突き出した。
その動きに合わせ透明な物が猪に向かって飛んでいく。しかも、途中から無数の棘が生えた形に変わって。
私の牙の何倍も有る棘が無数に生えた物に体当たりをされては流石に狂暴化した猪と言えど逃げるしか
無かったようで、一目散に森の中に姿を消してしまった。

『ニタイカラペ 大丈夫?』
猪の姿が見えなくなったのを確認するとリムルルが心配そうに私の方に駆け寄って来た。
「うん、なんとか それよりもそれなんなの?」
身体の痛みを忘れるぐらい気に成っていたので、まずその透明な物の事を聴いてみた。
『えっこの子? えとね、名前はコンルって言ってね、なんでもあたしの声を聞いて助ける為に来たんだって。』
リムルルを助ける為に  そうかさっき感じた力の流れはコンルの為だったんだ。
じゃコンルはリムルルの守護精霊って事なのかな?
そう思ってコンルに話しかけてみたけど、なんか返事は音ばっかりで何を言ってるのか全然解からない。
もっともリムルルには意味が解かるようでちゃんと話せてるみたいなんだけど。
『ニタイカラペ歩ける? コンルがコタンまで案内してくれるって、早く帰らないと怒られちゃうよ』
「確かに、もう真っ暗だもんね 早く帰らないと  ナコルル達、心配してるだろうな」
まだ全身の痛みは残っているけど、歩く事ぐらいは出来るまでには戻っていた。
コタンよりもう少しと言う所で私達はレラに出会った。
いきなり目の前に飛び出して来た時は驚いたけど、どうやら帰りが遅い私達を心配して探していたらしい。
リムルルや私の怪我を確認し
『リムルルは無傷、ニタイカラペも打ち身だけだから大した事は無いね
じゃさっさと帰るよ チセで母様やナコルルが心配しているからね。』
そうとだけ言うと、レラはさっさとコタンに向かって歩き出した。
当然、思いっきり怒鳴られると思っていた私はちょっと拍子抜けした気分だった。
それにしても、打ち身だけって 全身バキバキなのにぃ
チセに着くと待っていたのは、ナコルルのお出迎えとそれに続く説教だった。
特にリムルルは母親とナコルルの二人から説教を受け、かなり堪えてたみたいだった。

それとコンルなんだけど、ママハハに聞いたらやっぱりリムルルの守護精霊だった。
ただ、リムルルの巫力はまだ未熟な為に私みたいに動物を模した姿が取れず氷その物の姿でしか形作りが
出来なかったんであんな姿で現れたらしい。
私の場合はあくまでもナコルルの守護精霊なんで、ナコルルと余りにも離れてしまうと巫力を得られずに
本来の力が出せないらしい だから、熊には勝てたけど猪に負けたんだ。
この辺は修練を詰んで自分自身の力を上げるしかないらしい ん~未熟ってそう言う事だったのか

まぁ今日はリムルル以外みんなお出かけだしゆっくりしてよ  えっリムルル以外・・・
『ニタイカラペ 食材探しに森に行くよ 大丈夫、コンルが居るんだから迷う心配は無いし安心だよ』
あぁ懲りてない~
# by nero_160r | 2008-06-01 23:19 | 風が守りし者(ノベル)
時は3月
アイヌモシリでも北方に位置する小さいコタンで若き村長アガダタの妻ユマリが身篭った。
その事で1つの騒動が起こっていた。
普通ならば祝い事に成る筈の事がなぜ騒動の原因に成っているのか?
ユマリの状態からすると、出産予定は10月~11月 丁度、冬の始まる時期である。
アイヌモシリの冬は厳しい、生まれたての赤ん坊には過酷な季節なのだ。
その為、出産は冬の終わりになるように契りの季節は村の掟で決められている。
そうなのだ、村長自ら掟を破ったのだ。

掟は神聖である。いや、神聖で無ければならない。
その掟を破ったと有れば、それ相応の報いを受けなければならない。
本来、掟破りの報いはコタンからの追放だが、今回はそう簡単には行かない。
と言うのは、アガダタを追放すれば当然ユマリも一緒について行くだろう。
冬も終わりに近づいているとはいえ、まだまだ厳しい日々が続く・・・
そんな時期に妊婦を村の外に追い出すのは、余りにも危険だ。
親がいくら掟破りとは言え、生まれてくる子供には何も罪は無い。
この二人の処罰に頭を抱えていた長老達だったが、処罰の決定をしたのは他ならぬ
アガダタとユマリの二人だった。

『神からの啓示が有った。俺たちの間に生まれる子は大きな宿命を持って生まれてくる。
 冬の厳しさに負ける様では到底立ち向かえない宿命らしい・・・
 つまり、この子は生まれながらにして試練を受けねば成らないのだ。』
集まった長老達に向かってアガダタは語った。
そして、ユマリが
『しかし、掟を破った事は事実・・・その報いは受けなければ成りません。
 アガダタは村に必要な人です。ですから、私がアガダタの分まで報いをお受けします。』
と続けた。
その言葉に驚いたのは長老達だった。
アガダタがユマリの分まで報いを受けると言い出すのならば解かる。
身重なユマリを思って処罰を悩んでいたのだから・・・アガダタならば、一人で冬を越す
能力を持っている。だから、追放期間も1年とすれば来年のこの時期には帰ってこれる。
そうすれば、親子三人で暮らす事も出来る。
そう言う考えから、長老達はアガダタが一人で報いを受けると言い出すのを持っていたのだ。
所が言い出したのは逆にユマリの方だった。
この時期、妊婦か村の外で暮らすことがどんなに危険かを長老達が説明をしたが、
『この子は過酷な未来を生きていかねば成らない宿命を背負って生まれてきます。
 そんな宿命を背負わせてしまった母親である私も試練を受けねばこの子に申し訳ありません。』
目線を逸らすことなくきっぱりと言い切るユマリに長老達は何も言えなく成っていた。
一方アガダタはユマリの言葉を無言で聞いたいたが、その目には苦渋に満ちた光が宿っていた。
かくして、ユマリは裏山の中腹辺りにある岩牢に幽閉される事となる。

ユマリの幽閉が決まった時、さすがに村人から非難の声が上がった。
しかし、それを抑えたのもアガダタとユマリだった。
『心配して頂いてありがとうございます。でも、大丈夫です。ご心配なく』
と言うユマリの笑顔と
『掟破りの汚名で蔑まれても良い。ユマリと子供が帰って来る場所を守って居たい』
と言うアガダタの表情に何かを感じたのか、村人たちは二人の処分を受け入れた。

アガダタは長老の任を解かれること無く今まで通り村の祭事をこなす事になる。
以前に比べより精力的に活動をするようになるが、表情を崩すことが無くなっていた。
そんなアガダタに、村人達は何も言わずに今まで通りに接するように成っていた。


季節は巡り、時は10月
初雪は例年よりも早くすでに山の中腹辺りまで白い衣に覆われている。
今年は6月初めまで雪が残るなど、何時もの年に比べ雪が異常に多い・・・
そんな中、ユマリの幽閉は続いていた。
食べ物は最低限とはいえ、村人が運んでくれているおかげで飢えは凌げている。
だからと言って身重なユマリにとって辛い事には変わりは無い。アガダタと会えれば少しは
癒されるのだろうが、二人が会うのを禁じたのは他ならぬ二人なのだ。
今は日に日に大きくなっていくお腹を摩り、中の赤ちゃんが動いていることを確認するのが
唯一の楽しみに成っている。

『る~るる~ら~・・・くっうあぁぁ』
何時も通りお腹を摩りながら詩を聞かせていた時、いきなり下腹部に激痛が走った。
『うあぁ・・・くぅ~ そ・・ろそろ・・・なの・・・』
直感的に生まれると解かったが、幽閉されている身では誰かが来るまでどうしようもない。

その頃、コタンでは・・・
『アガダタ~居る~?』
一人の女性がアガダタを訪ね村長の小屋を訪れていた。
女性の名はオムルル ユマリの幼馴染にして親友でもある。
『なんだ、オムルルか 何の用だ?』
苛ついた口調でアガダタが顔を出す。
『うん、あのね今日あたしがユマリに食事を運ぶ役なんだけど、一緒に来てくれないかな?』
アガダタの口調にちょっと引きながらも、そう言葉をかける。
それを聞くや辛そうに顔をしかめ
『お前も知っているだろ、俺とユマリは・・・』
『二人が会うのを禁じられている事は知ってるわ。
 でも、なんだか今日は一人で行っちゃいけない気がするの・・・
 あたし一人で行くと・・・なんて言うか・・・何かが間に合わないような気がして・・・』
さらに苛ついた口調で断りかけたアガダタの言葉を制止しオムルルが続けた。
オムルルのその不安げな表情にアガダタ自身も朝から抱いているモヤモヤしたわだかまりと
一緒の物をオムルルも抱いているのだと理解した。
『解かった、一緒に行こう。ただし、俺はユマリと会う訳には行かないから近くまでだぞ。』
『良かった。じゃ、食事の用意をして来るわね。』
アガダタが一緒に行ってくれることに成り安心したのか、明るい表情に成り食事の用意の為に
自分の小屋に戻って行った。
そんなオムルルを見送った後、アガダタも準備を始めた・・・

食事の準備はすでに出来ていたのか、早々にオムルルが戻ってきた。
そして、二人揃ってユマリの岩牢に向かって行った。
途中、アガダタが帯刀している事に気づいたオムルルが理由を尋ねるとアガダタ自身も自分が
帯刀している事に驚いていた。
『久しぶりにユマリの顔を見れるから焦ってたんでしょ』
とからかい口調のオムルルに
『近くまで行くだけで会いはしない』
憮然と答えるアガダタだった。
『はははっ  でも、今日は良い天気ね。ユマリも日光浴ぐらいしたいだろうなぁぁ』
そんなアガダタに笑いを漏らしたオムルルだったが、ふと山の中腹を見上げ呟いていた。

山の天気は変りやすいとは言え、それは余りにも唐突だった。
森を抜け山に入るとにわかに空を黒い雲が覆い始め、雪がちらつき出したのだ。
そして岩牢までもう少しと言う所まで来たときには、すでに吹雪に成っていた。
『これ以上は危険だ。引き返したほうが良い』
風に飛ばされそうなオムルルを支え引き返そうとするアガダタだったが、オムルルは応じない
『一人じゃだめって思ったのはこの為だったのよ。
 だとすると、今日は絶対にユマリに会わないといけないの気がするの。
 だからお願い、アガダタ連れて行って。』
オムルルの激しい口調と真剣な表情に驚いたアガダタだったが
『解かった。お前のその「気がする」には昔っから助けられたからな』
ニッと笑いオムルルを吹雪から守るように支えながら岩牢に向かって歩を進めた。

程なくして岩牢に到着した。
岩牢自体は洞穴の中に木で格子を作った物で、中まで雪は吹き込んでいなかった。
洞窟の入り口付近でアガダタが待ち、オムルルが奥の岩牢に向かった。
『ユマリ~オムルルよ。食事を持ってきたんだけど・・・大丈夫?』
声を掛けながら近づいていくが返事が無い。
心配になって格子に駆け寄り中の様子を確認すると、蹲ってうめき声を上げているユマリが目
に入った。すぐさまアガダタを呼び寄せる。
『おい、ユマリどうしたんだ?大丈夫なのか?』
駆け付けたアガダタが声をかけると、ユマリはうっすらと目を開けこちらを見た。
そしてアガダタに気づくと
『生まれるの・・・』
と小声でつぶやくように言った。
『陣痛が始まったのね。
 大変早くコタンに連れ帰らないとこんな所じゃ子供もユマリも危ないよ』
ユマリの状態に気づいたオムルルは格子を開けようとしたが入口は綱でがっちり括られている
素手でどうなる物ではない。
『どけっオムルル』
振り返るとがマキリを構えたアガダタがそこに居た。
オムルルが横に避けると同時にアガダタはマキリを一閃させ綱を叩き切った。
そしてすぐさま牢の中に入りユマリの様子を確認する。
ユマリの顔色は真っ青で意識も朦朧としていた。そして体がかなり冷えている。
『やばい、かなり消耗してるな。オムルル、先に戻ってユマリの状態を報告して出産の準備を
 整えといてくれ。俺もすぐに後を追う。』
『う うん、解かった。』
オムルルはアガダタの言われるままにコタンに向かって吹雪の中に飛び出して行った。
アガダタは自分の着ていた物をユマリに着せ、少しでも防寒を高めようとしていた。
『アガダタ・・・』
少しの温もりで意識が戻ったのか、ユマリはアガダタに笑いかけた。
『辛い想いをさせて悪かったな。今からコタンに戻るぞ、少し寒いだろうが我慢してくれよ。
 そしてコタンに着いたら元気な赤ちゃんを生んでくれ』
ユマリを抱きかかえ笑みを浮かべて言うと
『大丈夫よ。あなたの腕の中はどんな所よりも暖かいもの』
アガダタの胸にもたれ掛るように体を預けユマリは幸せそうな笑みを浮かべて答えた。
『がんばってくれよ』
そんなユマリに小声で一声掛け、アガダタは吹雪の中に走り出して行った。

オムルルの報告を受け、ユマリを受け入れる準備の為に村長の小屋に人が集まっていた。
そんな中ユマリを抱きかかえたアガダタが小屋に掛け込んで来た。
すぐさま服を脱がしお湯で全身を温め始める。
陣痛も激しくすでに破水が始まっていたが、ユマリの消耗が激しく思うように事が運ばない。
子供の頭が見えた時は、ほとんど夜明け近くに成っていた。
『もう少しだよ。がんばるんだ、ほらっ 力んで・・・』
産婆の言葉に併せユマリが力むと、とうとう子供の全身が出てきた・・・
『・・・』
その姿を見た産婆は絶句した。
黒い・・・全身真っ黒な子供だったのだ。
『もう一人居ます』
ユマリの様子を見ていた別の産婆が声を上げた。
そして、次に生まれた子は逆に真っ白な子供だった。
『黒いお子と白いお子 これにはどういう意味があるんじゃ』
まったく対照的な子供が生まれた事に不吉な思いが過ぎった・・・
が、すぐさま悲痛な声にかき消された。
『ユマリ・・・ユマリ~』
二人目を産み落とした後、ユマリはひっそりと息を引き取った。
消耗しきったユマリの体は二人も生むことに耐えられなかったのだ。
しかし、二つの新しい命を生めた喜びなのか、その死顔には笑みが浮かんでいた。

生まれた二人の子供は、兄(白いお子)エシテ 弟(黒いお子)テシテと名付けられ
アガダタの元、未来に待ち受けている宿命に向かって歩み出すことに成る。
# by nero_160r | 2008-05-08 01:01 | 魔に魅せら者(ノベル)
あたしの名前は「ニタイカラペ」 狼の姿をした風の精霊にしてナコルルの守護精霊
あたしがナコルルと初めて出会ったのは、彼女がまだ幼い頃だった。

あの頃のあたしは風そのものの姿で、森の木々達の間を吹き抜けるだけで毎日を過ごしていた。
そんなある日、何時もよりも遠くまで足を伸ばし、峠の向こう側の森まで行ってみる事にした。
初めての森は見る物が目新しく嬉々として木々達の間を吹き抜けていると、舞いを踊っている
少女に出くわした。
その少女の棒を片手に黒髪をなびかせながら身体全体を使った流れるような舞いにあたしは
一目で魅了されてしまった。
この少女が「ナコルル」。
もっとも、この頃はまだナコルルの名前も人間と言う存在も知らなかったのだけど…

その後、あたしは毎日のようにこの場所に出向きナコルルの舞に魅入っていた。
風雨が余りにも酷い日を除き、ナコルルはほぼ毎日同じ頃にやって来ては舞を踊っていた。
時々良く似た少女と二人の時も合ったが、大体は一人っきりだった。

何日か通っている内に、ナコルルの舞を見に来ているのがあたしだけでは無い事に気付いた。
ナコルルが姿を表すと、どこからとも無く森の動物達が集まって来るのだ。
あたしは近くに居たリスに話かけてみた。
そこで初めて彼女がナコルルと言う名の人間だと知った。
『初めて出会った人間がこの世で最高の者だった。』
その事が自分の将来を決める事に成るとは、その時は夢にも思わなかった。
通い出して十数日が過ぎた風が凄く強く日…
(ナコルルの舞の間だけでも弱めてくれる様にこの地の風の精霊に頼んだのに断られた…)
もしかしたら今日は来ないかな…と心配だったけど、何時通りナコルルは姿を表し舞を踊りだした。
舞が見られるのは嬉しかったけど風が余りにも強く、風に煽られて転げたりしないかと心配しなが
ら見ていたが、案の定大きく身体を反らした所に突風を受け体制を大きく崩してしまった。
「危ない!」
咄嗟に飛び出したあたしは、転びかけたナコルルの身体を支えてあげた。
「ありがとう」
背中を支えているあたしに最初は驚いたふうのナコルルだったが、すぐに笑顔で笑いかけてきた。
「えっ えへへ、どう致しまして」
ナコルルの笑顔にあたしはなんだか妙に照れくさくなり、思わず照れ笑いで返してしまった
「何日か前から、ずっと見に来てたよね。そんなに剣の修練って珍しいの?」
そんなあたしにナコルルは不思議そうに尋ねてきた。
「あっなんだ気付いてたの…てっ剣の修練?舞の練習じゃなかったの?」
あたしが見に来ていることに気付いていた事よりも、舞の練習だとばかり思っていたのが剣の修練
だと言われそっちの方に驚いた。
「ええ、私がここで修練していたのはシカンナカムイ流刀舞術って言うコタンで巫女の間に伝わる
剣技なの。
姉様と二人で母様に習っているんだけど、私って憶えが悪いから姉様との練習が終わった後に
何時もここで復習をしてたの」
あたしの驚いた表情に申し訳なさそうな表情でナコルルは説明してくれた。
「ううん あたしが勝手に勘違いしてたんだから、気にしないで」
ナコルルの表情にあたしは慌てて声をかけた
「ありがとう そだ、私はナコルルって言うの あなたの名前は?」
再び笑顔でナコルルが話しかけて来る。
「うん、ナコルルの名前は何時も木の上で見てるリスに聞いて知ってたの
あたしの名前はニタイカラペって言うの 
ねぇあたしも一緒にその刀舞術を習ってみたいんだけど良い?」
「えぇっ 精霊のあなたが剣術を習いたいの?」
精霊のあたしが剣技を習ってみたいと言い出した事にはかなり驚いた様子だったが、剣技としてでは
無く、舞として習ってみたいと言うとナコルルは納得してくれた。

それからは二人で修練をするようになり、二人で力を合わせ今までに無い技を考える事も有った。
時々ナコルルと一緒に修練に来ていたのが双子の姉のレラだと言うのが解かったのはその頃だった。
レラにもあたしの事が見えて居るようだったけど、特にあたしの事を意識すると言う事は無くナコルル
とはなんとなく雰囲気が違うように感じ近寄りがたい所が有った。

そして何時しかあたしは修練の時以外もナコルルと一緒に居るようになった。

ナコルルのコタンに住むようになって驚いたのは、村人全員に認知されている精霊が居た事だった。
その精霊の名前は「ママハハ」、コタンの巫女の間で代々受け継がれている宝刀の守護精霊にして
宝刀の持ち主の守護精霊でも有るらしい 今はナコルルの母様に仕えているとの事。
すぐ怒鳴るので最初は怖かったけど、何も知らないあたしにコタンの事や人間の事やその他にも
色々な事を教えてくれる親切は方だった。
 ナコルルのコタンに住みついて初めての冬を迎え様とした有る日
母様からの頼み事でナコルルは森へ出かけることに成った。当然あたしも着いて行った。
頼まれ事は自体は対した事では無かったので簡単に片付いたが、急に天気が崩れ大粒の雨が降り出した。
あたし達は仕方なく近くに見つけた洞窟で雨宿りをして雨脚が弱るのを待つ事にした。

しかし、雨脚はなかなか弱る気配を見せなかった。

「気長に待つしか無いよね」
洞窟の入り口から空を見上げて居たナコルルがそんな呟きを漏らした丁度その時、雨に煙る森から
黒い影と共に唸り声が聞こえてきた。
「…」
ナコルルが絶句する。それは紛れも無く熊の唸り声だった。
咄嗟に洞窟の奥に隠れるが、熊は鼻を曳くつかせながら洞窟に入ってきた。
冬眠を控えた初冬の熊は貪欲に食べ物を漁る為、非常に危険な存在なのだ。
あたしは風を起こしなんとかナコルルの匂いを消そうとしたが、敏感に成っている熊の鼻を誤魔化す
事は出来なかった。
隠れているナコルルを見つけた熊は一気にその鋭い爪を振りかざして襲い掛かった。
寸前の所で見切ったナコルルは横っ飛びで熊の攻撃をかわした。
しかし狭い洞窟の中と言う事を考えていなかった為、壁に頭を打ちつけてしまい気を失ってしまった。
あたしはナコルルに駆け寄り声を掛けたが目を覚ます気配は全然無かった。
その間にも熊は近寄ってくる。
「あなたが今大事な時期なのは解かってます。でもお願いナコルルは助けてあげて
この子はあたしの全てなの、だからお願い助けて」
あたしの懇願も熊の耳には届かなかった。
体当たりで止め様としたけど、あたしの体当たりなんか全然効かない。
この時ほど自分の非力さを恨んだ事は無かった。そして心から願った『ナコルルを守る力が欲しい』と
『この力をお使いなさい。』
不意に頭の中で誰かが囁いた。その途端、凄い力があたしの中に流れ込んで来た。
それに伴って自分の身体が目も眩むほどのまばゆい光に包まれて行くのが解かった。
光が引き、視界が戻って目に入ったのは呆然と立ち尽くしている熊の姿だった。
自分の状況が把握できず一歩踏み出した…手に土の感触が有る、毛擦れの音がする…
「どう言う事??」
そう言ったつもりが耳には「グルル~」と言う唸り声が聞こえてくる。
解からないだらけだが、唯一解かったのはあたしの姿に熊が怯んでいる事だ。
あたしはまずナコルルを助ける事を考え、咆哮と共に熊を睨みつけた。
すでに逃げ腰だった熊はそれだけであっさりとその場を逃げ去って行った。

なんとかナコルルを守る事は出来たが、別の熊に出会った時今回みたいに簡単に行くとは限らない
雨も霧雨程度になっていたので、あたしはナコルルを背負いコタンに戻る事にした。

背中にナコルルを乗せて居るのにも関わらず、森の中を疾走する感じは今までと何ら変わらず
自分でも信じられない速さでコタンに帰りついた。
驚いたことに、あたしを出迎えてくれたのはママハハだった。

ナコルルをチセに寝かしつけた後、あたしはママハハに今回の出来事を打ち明けた。
「心配する事ではない むしろ喜ぶべき事だ。
お前はナコルルの巫力を得て彼女の守護精霊へと昇華したのだ。
お前のナコルルを思う気持ち、ナコルルがお前を信頼する気持ち
その双方の気持ちが揃って初めて成り立つのだ。」
あたしがナコルルの守護精霊に昇華…
ママハハは嬉しそうにしていたが、あたしは不安で仕方が無かった。
今までと姿が変わり過ぎているのが一番の理由だ。川面で自分の姿を見たが、狼そのものだった。
こんな姿をナコルルが受け入れてくれるのだろうか?

しかし、そんな考えはあたしの取り越し苦労だった。
目を覚ましたナコルルはあたしを見るなり首に抱き着いてきた。
「私を助けてくれて、ありがとうニタイカラペ それに、ごめんなさい」
嗚咽混じりのナコルルの言葉にあたしの中に有った蟠りは一気に消え失せるのを感じた。
「気にしないでナコルル これはあたしが望んだ事だもの」
そうこれはあたしが望んだ事なのだ『ナコルルを守る力が欲しい』
首に抱き着いているナコルルを見ながら、あたしは改めて心に誓った。
『あたしはナコルルを守る』と…
# by nero_160r | 2008-05-08 00:35 | 風が守りし者(ノベル)
ローゼンメイデンより「水銀燈」_a0040948_23225057.jpg


新連載が始まってますが、銀様の出番はまだ無いのでおねむ中です
# by nero_160r | 2008-05-06 23:23 | CG集