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CG集とナコルル中心の創作ノベル


by nero_160r
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「恐怖の意味」

テシテは上も下も無い暗闇の空間の中に居た。
浮いている感覚は無い、だが立っていると言う感覚も無い、それどころか五感全てに
何も感じていない。
有るのは手に残る人を斬った感触、目に焼付いた恐怖に歪む人の顔、耳に残る断末魔の叫び
目を閉じようが耳を塞ごうがそれらを払うことが出来ずテシテはただ耐えるしかなかった。

不意に遠くでぼんやりした光が現れ、それは見る見る内にテシテに近づいてくる。
光の中から現れたのは紛れも無く『羅将神ミズキ』と名乗った巫女であった。
ミズキはテシテの頬をやさしく撫ぜながら話し掛けてきた。
『何をそんなに悩んでおるのじゃ?』
その言葉にビクッと一瞬身を震わせたテシテだった。
「俺は兄貴を・・・長老を・・・巫女様を斬った」
やっとの事で言葉を搾り出す。
『あやつ等はお主を殺そうとしたでは無いか お主は自分の身を守るためにやった事じゃ
 自分の身を守るために戦うのは自然界では当たり前の事では無いのかや?』
「確かにそうだが・・・」
『お主は当たり前の事をしただけじゃ それをなぜにそんなにも悩むのじゃ』
「しかし、俺が奪った命は・・・」
『では聞くがお主にとって正義とは何じゃ?悪とは何じゃ?』
「正義・・・悪・・・」
『他の命を奪う事は悪なのか?
 人は生きるために多くの他の命を犠牲にしているではないか?
 自分の身を守る時しかり、他人の身を守る時しかり、食料を得る時しかり・・・
 お主もそうして今まで多くの他の命を奪ってきたのではないのか』
「しかし今回俺が奪った命は普通の命じゃない。
 たった一人の肉親の命とコタンを代表する長老の命とコタンを守る巫女様の命だぞ。」
巫女の言葉は子供を諭すように優しさを含んでいたが、テシテはそれを拒絶するが如く声を
荒げてしまう。その声には怒気では無く悲痛な思いが篭っていた。
『普通の命では無いとは、これはまた妙な事を言う
 お主、人が特別な存在だとでも思っておるのではあるまいな?』
そんなテシテの思いをあざ笑うかのような表情をミズキは浮かべていた。
『自然界において、植物、動物、人、そして我ら魔も含めこの世に存在する命の価値は
 全て等価じゃ。それを人の命が特別などと思うのは単なる思い上がりじゃ 違うか?
 まして、弱肉強食は自然界における揺るぎようの無い法則じゃ
 そ奴らはお主より力が無かった為、お主の返り討ちにあった。
 ただそれだけの事ではないのかや?』
「・・・」
ミズキの言葉にテシテはどう答えて良いのは言葉が見つからなかった。
『それにお主は我の主アンブロジャ様の力ですでに魔になっておる。
 魔は人の命を糧に生きる存在じゃ。人の命を奪ったからと言っていちいち悩むでない。』
「俺が魔だと・・・」
『額の印がその証じゃ。我が刻んでやったのを忘れたのかや』
そう言いミズキがテシテの額に手を翳すと、テシテの体中に力がみなぎって来る。

 「はっ・・・」
目を覚ますと、昨晩、横になった同じ場所だった。
コタンを後にしてから夢に魘されると必ずミズキが現れテシテがエシテ達を斬り殺した事を
正当化し、力を授けてくれる。
その為、知らず知らずのうちにテシテは、その力に我を見失いつつ有った。
全てミズキが仕組んだ事だとも知らずに・・・
「弱肉強食・・・確かにそうかも知れん。
 俺が剣の修行に励んでいたのも力を付ける為、誰よりも強くなるため・・・」
そう一人呟き手元に転がっていた石を思いっきり握り締める。
『ガキッ』
鈍い音を立てて石が割れる。
その割れた石を見て口元に薄笑いが浮かんていた事にテシテ自身気付いていただろうか?
割れた石を投げ捨て、白み始めた空を見上げフラフラと歩き出した。


 辺りも薄暗くなった頃、テシテは小高い崖の上から下を見下ろしていた。
無表情に見つめるその先では子供が熊に襲われている所だった。
しかもその子は果敢にも熊に対し戦う素振りを見せている。
もっとも得物が枯れ枝では到底勝ち目は無い。普段のテシテで有れば子供を助ける為に
間髪入れず割り込んでいる所だが、今のテシテはミズキの言葉に魅入られ
『弱者は強者の生きる糧となる』
と言う思いに囚われている為、この結果の解った戦いを冷ややかに見つめていた。

 その子供は熊の攻撃を何とか交わしていたが、力の差は歴然でありすぐに追い詰められた。
そして熊が止めとばかり襲いかかろうとした瞬間、テシテの横を擦り抜け崖を飛び出して行く
2つの影が有った。着地した影は子供を庇うがの如く熊に対し身構えた。
しかもその手には何時抜刀したのか一振りの剣を携えていた。
突然の事で熊が混乱していると見て取ると、間髪居れずに一気に間合いを詰め、熊の眉間に
強烈な一撃を加えた。その一撃で熊は完全に悶絶してしまった。それほどの一撃で有った。
 「力任せじゃ無い剣撃であれだけの威力を出せるとは、かなりの体術使いだな・・・」
崖の上から傍観していたテシテは熊を倒したその人影に興味は湧き崖を下りていった。

 崖から降り立ったテシテの目の前に居たのは、年の頃なら17~18の少女とその少女に
寄り添うようにしている片目が潰れた白銀の狼だった。
しかも、その少女の背丈はテシテの胸辺りまでしかなく身体付きを見ても、熊を一撃で
倒したとはとても思えなかった。
しかしそれ以上にテシテが驚いたのは、その少女も褐色の肌をしていた事だった。
自分以外で褐色の肌を持つ人を見たのは初めてだったからだ。
 少女もテシテの褐色の肌には驚いたのか、すこし表情を強張れていた。
「俺はテシテ あんた・・・」
テシテが声をかけようとしたが、少女が先に声をかけてきた。
「あたしはレラ あんた、この辺りじゃ見かけない顔だね。流れ者かい?
まぁそんな事はどうでも良い、この辺の熊は気が荒いからね。
とっとと離れたほうが身のためだよ。」
他にも何か言いたそうだったが、それだけテシテに言うと背を向け、襲われていた子供の
様子を見るため離れていった。
「へぇ俺の身を案じてくれるとは嬉しい限りだな
けど、さっきぐらいの熊ならどうって事は無いさ 俺の手に掛かれば一撃だぜ。」
レラの言葉の意味も考えず、照れ笑いをしながらその背に向って言葉を返す。
「怪我は無いみたいだね・・・さっミカト、帰るよ」
しかし、レラはミカトと呼ばれた子供の怪我が大した事が無いと確認すると、テシテの言葉
を無視しそのまま歩み去ろうとしていた。
「おいおい、ちょっと待てよ」
無視させたテシテは慌てて2人を追いかけ、レラの肩に手をかけようとした。
その瞬間、テシテの手は跳ね上げられていた。
「気安く触るな あんたみたいな格好だけの野郎には虫唾が走るんだよ。
熊に襲われてぼろが出ないうちにさっさとここを離れる事だね」
振り向き様にレラが怒声と共にテシテの手を跳ね上げていたのだ。
「とっ・・・格好だけの野郎って? 何を怒っているんだ?
さっきぐらいの熊なら問題ないって言ったろ」
レラの言葉の意味が解らないテシテはその怒りの意味も解っていない。
「ふん、弱い奴ほど良く吼えるってね。
この子が熊に襲われていたのを見てるだけだったのにでかい口を叩くね」
再びテシテに背を向けたレラは吐き捨てるように言った。
「弱い奴って聞き捨てなら無いな、これでも・・・
ん? もしかしてその子を助けなかったから怒っているのか?
弱肉強食が自然界の掟だぞ
俺が助けなかったからってなんであんたが怒るんだ。」
以前のテシテからは考えられない言葉である。
「そうさそれが掟だよ。だから、刃を持つ者が持たない者を守るんだ。
そんな事も解らないのか」
レラはテシテに背を向けたまま怒気を含めた言葉を返す。
「弱い奴は強い奴の生きる糧にしかならないんだぜ。
それなのに弱い奴を助ける為に強い奴が刃を振るうなんて、その方が変だぜ。」
嘲るように言い返すテシテだったが、その表情が強張っていく。
「とっととこの辺りから消えな。それともあたしが消してやろうか?」
何時の間にかレラはテシテの懐に入り込み、しかも抜刀した刃をテシテの喉に押し当て
いたのだ。
「俺を消す? 俺を殺すと言うのか? そうかお前も俺を殺すと言うのか?」
テシテの強張った表情が見る見る憤怒の表情に変わっていく、それに連れてテシテの放つ
気も変わっていく。
テシテが放ち出した気は邪気・・・紛れも無く魔のそれであった。
「なっ・・・」
その余りの急な事にレラも驚きテシテから離れる。
「そうかお前も俺を殺すと言うか 兄者や巫女様と同じだ、みんな俺を殺そうとする。
良いさ俺には力が有る。返り討ちにしてやる・・・」
レラが離れると、テシテは膝をつきその場にしゃがみこみ、ぶつぶつ独り言を呟き出した
そして、その全身から放たれる邪気がどんどん歪んで行く。
「こいつ・・・シクルゥ、ミカトを連れてここから離れろ」
その邪気に今までに無い危険な物を感じたレラは銀狼シクルゥにミカトを連れて逃げる
ように指示を出した。
その背に凶悪な殺気を含んだ邪気・・・いや、それはすでに殺意しか感じられない気が
レラを覆うように広がって来るのを感じた。
振り向くと、ゆっくりと立ち上がろうとしているテシテが目に入る。
こちらに向けられている眼は血のように真っ赤に輝いていた。
「魔に取り付かれているなんてね。安心しな、私が楽にしてやるよ。」
テシテに対し刃を構えながら声をかけるレラだったが、その額には汗が滲んでいた。
「楽にする・・・俺を殺すって事か 良いぜ殺りなよ 俺より力が有ったら簡単なことだ
その代わり俺より力が無かったら、お前が死ぬんだぞ」
最後にニヤっと笑ったかと思うと一瞬で間合いを詰め袈裟懸けに刃を振り下ろしてきた。
レラからすると瞬きした瞬間にテシテが目の前に居たのだ、咄嗟に刃で受けその力に逆ら
わず受け流せたのは奇跡に近い。
「こいつ、強い・・・」
間合いを開け体制を立て直そうとするレラだったが、その間合いを一瞬で無にし残像が残る
程の速度で繰り出されるテシテの剣撃を受け流すのがやっとの状態であった。
「どうしたどうした、俺を殺すんじゃなかったのか
さっきまでの鼻息の荒さはどうしたぁ その程度の腕で粋がってたのかぁ恥ずかしい奴め」
逆にテシテは口元に下卑な笑みを浮かべる余裕が有った。
「これならどうだ」
上下左右か繰り出していた斬撃を、いきなり突きに切り替えた。
「苦っ・・・」
切っ先を見極め弾く、もしくは避けてなんとか凌いでいたレラだったが斬撃よりも手数と
速度が上回るテシテの突きに、レラの身体は徐々に切り裂かれていく。
「なかなかしぶとい奴め そろそろ止めだ。死ね」
切り裂いているとはいえ致命傷が与えられないことに焦れたテシテは大きく身体を捻り力を
込めた一撃を繰り出そうとした。
その時テシテの突きが止まった。レラはその一瞬を見逃さずテシテの首に刃を一閃させた。
『がふっ』
しかし、吹き飛んでいたのはレラだった。
手を止めたのはテシテの罠だったのである。
剣先の動きに集中していたレラは、テシテの繰り出した蹴りがまったく見えていなかった。
「こ・・・このや・・うっがはっげほっ」
懸命に身体を起こそうとするレラだったは、呼吸困難で動けないのは一目瞭然だった。
身体ごと吹き飛ばされる程の蹴りを無防備な状態で溝打ちに喰らったのだ、意識が有るだけ
でもレラの精神力の強さが解る。
そんなレラを悠然と見下ろしながらテシテが近づいてきた。
「なかなか楽しかったぜ せめて最後は楽に逝かせてやろう」
真っ赤な眼に歓喜な表情を浮かべたテシテが刃を振り上げたその時、レラが背にした木の
背後からシクルゥが飛び出しテシテの腕に噛み付き、その勢いでテシテを投げ飛ばした。
「こ、この野郎 邪魔をするなぁ」
最後の楽しみを邪魔され憤怒の表情を浮かべたテシテはシクルゥの頭を掴み無理矢理引き剥
がし地面に叩きつけた。
「よくも邪魔をしてくれたな 先に殺してやる」
地面に叩きつけたシクルゥに切りかかろうとした時
「待てっ今度は僕が相手だ」
横から叫ぶ声があった。
声の方向を見るとそれはレラの刃を構えているミカトと呼ばれていた子供だった。
「シクルゥ大丈夫? シクルゥはレラを見てて 大丈夫、あいつは僕が倒す」
強気な事を言ってはいるが、剣先や足が震えている事から怯えているのは一目瞭然だった。
「止めろ、おまえじゃ相手にならない 早く逃げろ
シクルゥ、何をやっているんだい早くミカトを連れて逃げる」
そんなレラの叫びに
「大切な人達を守る為に僕は剣術を習ったんだ。だから、僕はレラを守る。
大丈夫だよ、レラが教えてくれたんだもん絶対に魔なんかに負けないよ。」
涙の浮かんだ眼でテシテを睨みながら、あくまでも強気に出るミカトだった。
「お前が俺を倒すだと・・・魔に負けないだと・・・
笑わせるな、震えているその身体で何が出来る」
2度も殺しの邪魔されたテシテはすでに鬼の形相を呈していた。
刃を振り翳しミカトに近寄るテシテ・・・ミカトはただ刃を構えているだけだった。
しかし、そんなミカトと眼が合った瞬間テシテの動きが止まった。
『なんだ・・・なんだこいつは・・・身体が・・・身体が動かない』
この感覚は子供の頃に味わった事がある。それは『恐怖』
恐怖に身体が竦み動かなくなる。
しかしなぜ怯えているとしか見えない子供に自分が恐怖を抱くのか
それがテシテには解らず、戸惑っていた。
「う・・・う・・・うわぁぁ」
強気な事を言っていても、刃を振り翳し自分を見下ろしているテシテを眼の前にしてテシテ
の状態を見極める余裕などミカトには無い。
何時刃を振り下ろしてくるか、目の前の状態に耐え切れなくなった時ミカトは叫び声と共に
テシテに切りかかっていった。
「ぐっ」
胸を切り裂かれテシテの竦みが解けた。
だがミカトに対する恐怖が消えた訳ではない、その為に前に出れず下がる事しか出来ない。
下がってミカトの斬撃を交す。その間にも理解できない恐怖に対し苛立ちが積もる。
そして苛立ちが恐怖心を超えたとき、テシテはミカトに刃を振り下ろしていた。
『ガキ~ン』
鋼と鋼の打ち合う音の響きと共にミカトは弾き飛ばされた。
小さなミカトがテシテの剣撃に耐えられる筈も無い、しかしテシテの方も衝撃を受けたかの
ように息を荒げながらその場に立ち尽くしていた。
「シクルゥ」
不意にレラの叫び声が響いた。
次の瞬間、シクルゥがテシテに体当たりをかけてきた。
まったく予期していなかった攻撃に呆気ないほどテシテは弾き飛ばされてします。
「うっうわぁぁぁ」
そして弾き飛ばされた先に地面はなく、叫び声と共にテシテは崖下に落ちていった。

テシテの声が途絶える頃、崖下を覗くレラとミカトの姿が有った。
「レラ 傷は大丈夫?」
あっちこっちに血を滲ませているレラにミカトが心配そうに声をかける。
「あぁこのぐらいの傷なら大丈夫だよ」
本当は立っているのも辛かったが、ミカトを安心させようと笑って答える。
大丈夫を聞いてほっとした表情を浮かべるが
「ねぇレラ 今の人・・・」
すぐに沈んだような表情になり、おずおずをミカトがレラに声をかける。
「下は川に成って居るけど、この高さじゃ助かりっこ無いさ。」
冷ややかに崖下を見詰ながらレラが答える。
「僕が・・・殺ったんだよね」
そうミカトが呟いた時
「止めを差したのはあたしだ。
それに魔に魅入られた者は死なないとその呪縛から解放されない。
死を持って人を救う事も有るんだ、ミカトが気に病む事は無いよ。」
人を殺めたと言う事でミカトが精神的な傷を負った事を癒そうとレラはそう諭す。
「・・・うん」
死して人が救われたと言われ少しは落ち着きを取り戻す。
「今日はもう遅い、ナコルルが心配してるだろうから早く戻った方が良い。
シクルゥ、コタンの近くまで送っておやり。」
レラに寄り添っていた銀狼がレラの言葉に従いミカトに寄り添うように寄って来た。
「ありがとう レラ、シクルゥ」
シクルゥを撫でながら無理に笑顔を作って見せるミカトだった。
# by nero_160r | 2008-10-28 00:18 | 魔に魅せら者(ノベル)
ソードワールド2.0キャライメージ_a0040948_141230.jpg

# by nero_160r | 2008-09-17 01:04 | CG集

「魔に取り込まれし者」

アガダタが旅立ってから季節は巡り、再び冬が訪れていた。
北の森を被っていた邪気は日に日にその範囲を広げ、今ではコタンの近くまで迫っていた。
そんな中、まだ雪化粧の残る滝のほとりで詩を歌うマリカの姿が有った。
マリカの歌声は流れ落ちる滝の轟音の中に有っても聴き取れるほどに良く通る。

程なくしてマリカが詩を歌い終わると、滝飛沫から剣を持ったテシテが現れた。
「お疲れ~」
河から上がったテシテに手ぬぐいを付き付けながら声を掛けるマリカだったが、
顔を赤らめてそっぽを向きながらなのは毎度の事である。
「そっちもな」
そっぽを向いているマリカに苦笑しながら手ぬぐいを受け取るテシテの姿も
実は毎度の事である。
『巫力を高めなさい。
 あなたなら剣舞で剣技を磨き剣術を舞刀術へと昇華させるのが一番ね』
自分の力不足に嘆き、巫女オムルルに教えを乞うた際に言われた事である。
それ以来ほぼ毎日テシテはマリカの詩に併せて舞刀術の修行に励んでいた。

「ねぇ、どんな感じ?」
コタンへの帰り道、マリカが声を掛けて来た。
「どんな感じって言われてもなぁ・・・
 始めた頃に比べて考えないでも詩に併せられる様に成ったって所かな」
マリカの不意の質問に思案顔で考え込むテシテだった。
「なにそれ~ 折角毎日協力して上げてるのに情けないわねぇ」
呆れ顔で考え込んでいるテシテに軽口を叩くマリカ
「あのなぁ そう簡単に・・・」
そんなマリカにテシテが反論しようとした矢先、二人の背後で唸り声が聞こえた。
振り向いたその先には、目に真っ赤な光を宿し牙を剥き出しにしたキツネが居た。
「そんな・・・」
キツネの姿に絶句するマリカ
「・・・魔に侵されてやがる。 下がってろマリカ」
絶句しているマリカを背後に庇いながらキツネに対し剣を構える。
その刹那、キツネがテシテに飛びかかってきた。
しかし直線的に飛びかかってくるキツネはテシテの敵ではなかった。
『ぎゃん!』
テシテの薙ぎ払った剣を腹に受け、地面に叩きつけられたキツネはそのまま悶絶
してしまった。
「とうとうこんな近くまで魔が迫って来たのか・・・」
剣を収めながら暗い表情で呟く
「大丈夫? 怪我しなかった?」
そんなテシテの背後から心配そうにマリカが声を掛けて来た。
「あぁ怪我一つ無いよ それより早く・・・」
心配気なマリカを安心させようとしたテシテだったが、急に全身を強張らせたかと思うと
大量の汗を流し始めた。
「え? ちょっとどうしたの、ねぇテシテ?」
テシテの様子が急に変わりオズオズを声を掛けるマリカだったが、
その声も耳に入っている様子も無く、今度は頭を押さえ苦しみ出すテシテだった。
「テシテ! しっかりしてよぉテシテってたら~」
尋常でないテシテの様子にただならぬ物を感じたマリカは、テシテを落ち着かせようと
懸命に声を掛ける。
「がぁ~」
しかしテシテは獣めいた絶叫を挙げたかと思うとその場に崩れ落ち気を失ってしまった。

----------
魔に侵されたキツネを倒した・・・
マリカが心配気に声を掛けて来た・・・
そして、突如周りが暗転した・・・
気が付くと巫女の姿をした見知らぬ女性が目の前に立っていた。
「・・・」
何者か問いただそうとしたが声が出ない、いやそれ所か指一つ動かせない。
『なかなか良い力を持っている様じゃな
 これならば天草の変わりには十分な素材じゃ』
音も無く近づいてきた巫女は邪悪な笑みを浮かべながらテシテの頬を撫ぜる。
『それに天草を倒す為にその身を犠牲にしたあやつの息子と言うのがまた面白い
 お主の父が身を呈して光の巫女を守った様に、お主も身を呈して光の巫女から
 我を守れ。その見返りに我が与えるは狂気と力』
そしてテシテの額に手をかざし、呪文を唱え出した。
巫女の唱える呪文と共にテシテの額に激痛が走り出す。
その尋常でない激痛に何時しかテシテの意識は遠のいて行った。
『印は刻まれた。それはお主が我「羅将神ミズキ」の下僕となった証。
 我は今しばらく眠りに着く、お主は我の復活のその時までにその力を発現させておけ
 発現前に力が必要な時は額の印に祈れ、我を通じてアンブロジャ様の力を貸そうぞ
 良いな 我はお主に期待しておるからな』
薄れ行く意識の中でも、ミズキの嘲るような言葉はしっかりと心に刻まれた。
----------

「うっ」
次にテシテが目を覚ました時のは、自分のチセだった。
周りにはエシテや長老、マリカにオムルルも居た。
「俺は・・・確か急に目の前が真っ暗になって・・・痛っ」
身を起こすと再び頭痛が襲う
「まだ横になってないとだめよ」
ふら付いたテシテの身体を咄嗟にマリカが支える。
「話はマリカに聞きました。あの日以来ぞっと舞刀術の修練をしていたそうね
 修行は厳しいもの。
 でも、適度な休息を入れないと習得する前に身体を壊す事に成りかねないのよ。
 特に巫力の修行は肉体よりも精神を使うから、あなたみたいに肉体的に強い人は
 気付かないうちに精神力を使いきって倒れること事多いのよ。気を付けなさい。」
マリカに支えられ再び横になったテシテに向かい厳しいが優しい目でオムルルが諭す。
「まったく、父様の手助けをしたい気持ちは解かるが、倒れるまで修行してどうする。
 父様がそんなお前を見たって父様は喜んだりしないぞ」
マリカと逆方向に座っていたエシテが安堵の溜息を付きながらぼやく
「まったくじゃよ
 折角、魔の恐怖が去ったというのにテシテが倒れちゃ意味が無いからのぉ」
エシテのぼやきに長老が相槌を打ちながらテシテに笑いかける。
「魔の恐怖が去った・・・どう言う事だ、長老」
長老の言葉に思わず半身を起こすテシテ
「空を被っていた澱んだ雲が突然切れて今じゃ眩しいほどの快晴だぜ
 森にしたってそうさ、まだ奥の方まで入って行った訳じゃないが、漂っていた邪気は
 完全に失せている。」
長老の変わりにエシテがテシテの言葉に答える。
「森の邪気が消えた・・・それって魔が消滅したって事じゃ・・・
 じゃ親父が魔を討ち取ったって事なのか」
エシテに聞き返すテシテ
「他に何が考えられる」
とエシテ
「そっか・・・はは、やっぱ親父だよ 俺が心配するまでも無かったって事か」
ドカッと横に成ると目を隠しながらぼやくがその口元には笑みが零れていた。
「そう言う事だ、お前はまず自分の事を考えてれば良いんだ
 間違っても今みたいに寝入ったままで父様を迎えたりするなよ」
エシテのその言葉にチセに居た全員から笑い声が漏れ出した。

その日を境にコタンに笑い声が戻った。
村人は魔を討ち取ったアガダタの帰りを今か今かと待ち侘びていた。

そして邪気が消えて三ヶ月後、アガダタが帰ってきた・・・
正確には宝刀とアガダタが絞めていた帯だけが・・・

その日、コタンに二人の訪問者が有った。
二人は、カムイコタンの長老オユダタとヤンタムゥと名乗った。
オユダタの話に寄れば、カムイコタンでも今回の凶事に気付き戦巫女で有るナコルル
が討伐に旅立った。
その旅先でアガダタとナコルルが出会い共に魔に立ち向かって行ったらしい
戦いは熾烈を極めたらしいが、アガダタが身を呈してナコルルを守ってくれたおかげで
彼女は魔の元凶を倒すことが出来たと言う事だ。
「これはナコルルが持ちかえった、アガダタ殿の剣と帯です。
 アガダタ殿が居なければ魔を倒すことは出来なかったでしょう
 感謝の言葉も有りません。
 本来ならナコルル本人が出向くべきなのでしょうが、なにせ疲労は激しい為
 代理で私がお伺いさせて頂きました。」
オユダタは宝刀と帯の切れ端をエシテに手渡しながら、そう言葉を括った。

アガダタの死は、村人全員が悲しんだ。
しかし、守るべきものを守ったアガダタに誇りを感じ、村人全員が胸を張って
アガダタをカムイモシリへと送った。
オユダタとヤンタムゥの二人もアガダタを送る儀式に参加の為2日ほど滞在した後、
自分たちのコタンへと帰って行った。

二人が帰った日の夜、村長のチセにエシテ・テシテ・長老・オムルルが集っていた。
次の村長を決めるためである。
もっとも、すでに『次の村長はエシテ』と言う考えでテシテも含め全員が賛同していた
ので、その確認の為の集りみたいな物だった。
「では、村長はエシテと言う事で良いな。」
長老が皆を見渡し意思を確認する。
「ええ、意義は無いわ 宜しく村長」
オムルルが長老の言葉に頷き、エシテに笑いかける。
「ああ、こっちも・・・痛!」
テシテも長老の言葉に頷こうとしたとき、不意に頭痛がし目の前が歪み出した。
頭痛は激しくなり歪みも激しくなっていく・・そして目の前のエシテ達の表情を見て愕然とした。
3人共今まで見たことも無いような下卑な笑みを浮かべていたのだ。
そして、口々にテシテを罵る
『次の村長は私だ 力馬鹿なお前は、いらないんだよ。
 大体、私と同じ顔のくせに肌は黒いは剣しか取り得ないは、はっきり言って邪魔なんだよ
 お前の存在って 父様も逝った事だし、お前も一緒に逝けよ』
とエシテ
『生まれた時に殺しておけば良かったのぉ
 まったく、邪魔な存在に育ちおって
 アガダタの情けで生かさせられてたのを知らんのか?
 少しでも恩に感じるのなら、アガダタの後を追って、お前も逝ったらどうじゃ』
と長老
『舞刀術の練習で失神ですって、笑わせるわねぇ
 まさかあんな嘘を真に受けて真剣にやるなんてね~
 付き合わされたマリカが可哀想じゃない よく愚痴を言ってたわよ
 迷惑で断りたいけど、断ったら何されるか解からないから嫌々付き合ってるんだって
 そんな事も解からないなんて、生きていく資格なんか無いわね とっとと逝ったら』
とオムルル
3人はテシテを囲み、下卑な笑みを浮かべ次々と罵声を浴びせてくる。
その罵声は耳を塞いでも聞こえてくる、下卑な笑みは目を瞑っても目に飛び込んでくる。
その時、テシテの耳に何者かの囁きが聞こえてきた。
『殺せ 奴らを殺せ 奴らはお前を邪魔だと言っているぞ、死ねと言っているぞ。
 このままでは、殺されるのはお前の方じゃ。
 殺される前に殺せ。お前にはその力がある。さぁ殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。』
「うお~」
囁きに導かれるようにテシテは、絶叫を上げながら壁に掛けてあった宝刀で三人に
斬りかかった。
3人を切り倒した後、チセを飛び出すと絶叫を聞いた村人達が飛び出してきていた。
村人達もエシテ達同様に下卑な笑みを浮かべ、口々に『逝けぇ逝けぇ』と罵っている。
そんな村人達も切り倒しながらテシテは闇に沈む森の中に姿を消して行った。

村長のチセは無残な状況だった。
エシテは左肩から袈裟懸け、長老は胴から真っ二つにされ死んでいた。
オムルルはかろうじて生きてはいたが、左腕を切り落とされ顔と胸を大きく斬り
裂かれていた。

「一体何がどうしっちゃったんですか?テシテはどこに行っちゃったんですか?」
オムルルの手当てをしながら、声を荒げてしまうマリカ
「わ、解からない・・・エシテを・・村長・にと・・・話してたら・・・
 テ・・シテ・・が・・・急にく、苦しみ出して・・私達を・・怯えた・・ような
 表・・・情で・・見て・たかと・・・思うと・・い、いきなり・・剣で・・・
 斬り・・・掛かって・・・来て・・」
青ざめた表情のまま息も絶え絶えに答えるオムルル
「そんな・・・」
あまりの事に絶句するしかないマリカだった。
「でも・・その時の・・テシテの目は・・あれは・・・紛れも・・無い・・・
 あれは・・・魔に侵された・・・動物と・・同じ・赤い・・赤い目だった」
ますます青ざめ朦朧とする意識の中で、オムルルはそう続けた。
「魔って、もう魔は終わったんじゃないんですか?
 魔はカムイコタンのナコルルって巫女が倒したんじゃないんですか?
 あれは嘘だったの?
 なんで、なんで今になってテシテだけが魔に侵されなくちゃダメなの」
テシテが魔に侵されたと言うオムルルの言葉に泣きじゃくり出したマリカだったが
すでにオムルルの意識は無くなっていた。
# by nero_160r | 2008-08-24 11:40 | 魔に魅せら者(ノベル)

魔の気配

この冬は雪が多い、森はおろかすでにコタンも白い景色に埋まっていた。
そんな村の脇を流れる河、その河の上流に小さいながら真冬でも凍る事の無い滝がある。
水量は多いほうでは無いが落差が大きい為に見た目以上に水飛沫が激しい
その激しく舞い上がる水飛沫の中で剣を振るっている人影があった。
褐色の肌に盛り上がった筋肉・・・テシテである。
一見、舞っているようにも見えるが水しぶきを切り裂いて走るその切っ先は、
滝その物を切り裂くのでは無いかと思わせるほど鋭い。
「テシテ!」
不意に川岸から良く通る声が響き、テシテがその動きを止めた。
「ふぅ」
川岸を一瞥し息を整えつつ裸の上半身に湯気を纏いながら川面から上がってくる。
「どうしたんだ? 歌の練習って訳じゃ無さそうだが・・・」
水飛沫に濡れた身体を拭きながら声をかけて来た少女に問い掛ける。
少女の名は「マリカ」
テシテと同い年で詩唄いの家生まれ、その歌声は母親以上とコタンでも有名な
腰まで伸ばした黒髪が特徴の少女である。
「うん、ちょっと聞きたいことが有って・・・
 それよりも寒くないの?見てるこっちが凍えそうよ」
テシテが上半身裸と気づき顔を赤くしながら咄嗟にそっぽを向いて答えるマリカだった。
「このぐらいなら火照りを冷ますのに丁度良い寒さだよ
 まぁ寒がりなマリカには解らないだろうがな
 ほらっ服は着たぜ 聞きたいことって何だよ?」
顔を背けたマリカの背に苦笑を浮かべながら声をかける。
「見てるだけで凍えそうなのに、解りたいとも思わないわよ」
ムスッとして拗ねたような表情をテシテに向けるが、頬の赤みはまだ戻っていない。
「それで聞きたい事なんだけど・・・最近良くないことでも起こってるの?」
しかし急に表情を曇らせそう続けた。
「良くない事? どういう意味だ?」
いきなり何を言っているんだ?言う口調で表情を曇らせたマリカに問い返す。
「毎朝あたしがチセの裏の池で練習してる事は知ってるでしょ?
 あのね、そこで村長と巫女様が二人で森に入って行く所を見たの
 最初は何かの儀式かなって思ったんだけど、あれから毎日見かけるし、
 二人共表情が日に日に暗くなって行くし、何か良くない事でも起こっているのかなって
 そう考え出したら凄く不安に成ってきて・・・テシテなら何か知ってるかなって・・・」
話すうちにマリカの表情はどんどん表情が強張って行く。
「すまんが俺は何も聞いてない。しかし、親父と巫女様が・・・
 初めて見たって言うのは何時頃だ?」
マリカの表情にただならぬ物を感じテシテの表情も硬くなる。
「えとっ確かテシテ達が最後の狩りから帰ってきた次の日よ」
強張った表情のままマリカが答える。
「そうか・・・解った、今夜にでも親父に聞いてみる。
 それと、なにが有っても俺が守ってやる、安心しろ」
何か思い当たる所が有るのか、しかしマリカを安心させるかのように笑みを浮かべ
マリカの髪の毛をクシャクシャにする。
「う、うん 一応頼りにしてるんだからね」
そんなテシテの言葉に安心したのか、マリカにも笑みが戻ってきた。

二人がコタンに戻ったとき、テシテが行く前にアガダタの方から呼び出しが有った。

その夜、アガダタ・エシテ・テシテ そして、巫女オムルルの4人が火を囲っていた。
「今夜お前たちを呼んだのは、今起こっている事とこれからの事を伝える為だ。」
しばらくの沈黙の後、アガダタが押し殺すような声でエシテとテシテに告げた。
「それって、親父と巫女様が森に行ってた事と関係有るのか?」
アガダタの言葉を聞きテシテはマリカの言葉を思い出し、言葉を割り込ませた。
「・・・知っていたのか
 テシテ、実はお前が感じた『破壊の気』についてなんだが、巫女の間に伝わる伝承の中
 に同じ物が有ってたのだよ 魔の復活の前兆としてな
 わしとオムルルはその事を調べる為に連日森に入っていたのだ。」
テシテに視線を送りながら、苦渋に満ちた表情で一旦言葉を切るアガダタ
「魔の復活だと・・・」
その余りの事に絶句するテシテ・・・エシテは言葉を出さずに何かを考え込んでいた。
「そして、わしとオムルルは確信を持った・・・魔は確実に復活しつつある。」
オムルルを見つめながら続けるアガダタ。そして、その視線にゆっくり頷くオムルル
「魔の復活はなんとしても抑えねばならん。よって、明日わしは魔討伐の旅に出る。
 祭事に関してはエシテお前に任せる。テシテな村の守護を頼む。」
エシテとテシテを交互に見ながらそう告げる。
「魔の討伐だと、親父みたいな年で冬の旅に耐えられる訳無いだろ。
 俺が変わりに行く、体力も剣の腕も親父より上だ。」
アガダタが魔討伐に行くと聞き声を荒げ詰め寄るテシテ・・・
しかし、そんなテシテを受け流し背後に掛けてあった宝刀を手に取る。
「力だけでは魔には勝てん。今のお前では、熊に勝てても魔には勝てん
 ほら、抜いてみろ」
アガダタが手渡した宝刀をテシテが抜こうとするがビクともしない。
「この剣はコタンで一番力を持つ者だけに力を貸す。
 魔は普通の剣では倒せん。この剣の力無くしては普通に渡り合う事すら無理なのだ。
 解ったか。お前では無駄死にするだけだ。」
テシテから受け取った宝刀をあっさりと抜刀するアガダタ。
「・・・」
そんな、アガダタに何も言えないテシテだった。
「テシテ・・・私は父様を信じる。だから、お前も信じろ。」
それまで、じっと囲炉裏の火を見つめていたエシテが重い口調でテシテに声をかける。
「解ったよ。コタンは俺と兄者でちゃんと守っていく。
 だから、安心して行って来てくれ。」
自分の力の無さにうな垂れ苦汁に満ちた表情で座り込む。

次の日の日の出前に、エシテ・テシテ・オムルル、そして長老達に見送られアガダタは
旅立って行った。
# by nero_160r | 2008-07-10 05:24 | 魔に魅せら者(ノベル)

レラ・優しさ

私の名は「ニタイカラペ」 狼の姿をした風の精霊のしてナコルルの守護精霊

最近、なにか森が妙な雰囲気に包まれている。
特に動物、それもリスやウサギと言った小動物に襲われる人が増えてきている。
薬草取りをしていた時、ウサギが現れ近づいて来たので撫でようとした手を伸ばしたらいきなり噛み付い
て来たとか、木の上からリスが飛び掛ってきたとか・・・
確かに時期に寄っては普段大人しい動物達も危険な時が有るけど、絶対向こうから襲って来る事は無い、
ましてやリスやウサギが人を襲うなんて考えられない。
ただ一様に襲われた人が言う事は、
『目が真っ赤でとても普通には思えなかった』
まさしくリムルルを襲った猪と同じ状態・・・
森で何が起こっているのか、それを調べる為にナコルル達の母親ミナモは森の中で一番古い木に逢いに
出かけていた。

そんな折、今度は狼に襲われる人が出始めた。
狼は熊と同じぐらいに危険な獣だけど、住んでいるのは山奥で狩りに出かけた人達が時々見かけるぐらい
で人が襲われた事は今まで無かった。
それに、集団で行動するのが狼の習性なのに今回の狼は1匹のみって所も変
もっとも1匹だけだから軽い怪我人が出た程度で収まっているんだけど・・・

『おかしくなって群れから追い出されたんだろ。
 それで居場所が無くなって麓まで下りてきたんじゃないのかい。』
夕食の時に狼の話題が出たので、おかしいと思っている事を言ったみた。
その時のレラの返事がこうだった。
『軽いとは言え怪我人まで出ているんだから、このままって訳には行かないし、
 でも母様が帰って来るまでまだ日が有るし、困ったわね』
ため息混じりにナコルルが呟く。
『母様を待たなくたって、群れから逸れた狼程度ならあたし達の力でも追い返すことぐらい出来るだろ。
 それにリムルルを襲った猪と同じなら、こっちの力を見せ付けてやれば逃げ出すだろうし
 少し痛みつけてやれば、二度と近づかなくなるさ。』
ナコルルの呟きにレラが答える。
『そうね・・・母様が留守の時は私達がやらないといけないんだし・・・』
レラの答えにやや伏せ目がちで答えるナコルルだった。
『陽が昇ったらあたしは森に行って来る。』
そう言って、レラは背後に掛けてあったマキリと取り手入れを始めた。
『えっそれじゃ私も一緒に・・・』
と言いかけたナコルルに対し
『母様が居ない上に、あたし達までコタンを空けたら村人達が不安がるだろ。
 村人を安心させるのも巫女としての務めだよ。だからナコルルは大人しく留守番してな。
 いいね。』
レラはそう言ってナコルルはコタンに残るように言った。
『でも、いくらなんでも一人で行くのは危険過ぎます。
狼だけじゃないのよ。』
しかしナコルルはレラの目を見て真剣な表情で言い返した。
『確かにそうだね じゃニタイカラペ一緒に来な。
同じ狼なんだ、匂いを元に追えば見つけ安いだろう。早く方が付けばそれだけ、危険も少ないんだしさ。』
そんなナコルルの様子を見たレラは、不意にあたしに話を振って来た。
「あの~同じ狼って言われても、そりゃ見た目は狼かもしれないけど、あたしは風の精霊だし…
それに狼の匂いなんて私は知らないですよ。」
おずおずとレラに言葉を返そうとしたけど
『それがどうかしたかい?』
の一言と一睨みで反論するだけ無駄だと悟った。
「いえ、頑張ります。」
あたしはすごすごと引き下がった。
こういう時のレラって熊以上に威圧感が有って、とても逆らえたもんじゃない。
『ごめんねニタイカラペ 姉様をお願いね』
それにナコルルにこう言われたら断れるもんじゃないし

『はいはい姉様~ あたしも一緒に行きた~い。』
唐突に、リムルルが話に割り込んできた。
「やっぱりかぁ」と私は思った。好奇心旺盛なリムルルがこんな機会を逃すはずが無いもの
『リムルル解かっているの? 遊びに行くんじゃ無いのよ。』
ナコルルも予想していたのか、溜息混じりにリムルルを見つめる。
『解かってるよう姉様 ようは逸れ狼を見つけて懲らしめたら良いんでしょ。
それだったら森で迷うニタイカラペなんかより絶対コンルの方が役に立つって。』
胸を張りながら言い切るリムルルだった。
「あれは、森の様子がおかしくなったからで、別に私が方向音痴って訳じゃないのよ。」
この間、一度だけ森で迷った事をさも私が何時も迷っているみたいなリムルルの口調にちょっとムッと
した私はリムルルに言い返した。
『へへ~んだ でも、私とコンルはニタイカラペが負けた猪に勝ったもん。コンルの方が強いって証拠だよ。』
不敵な笑いを浮かべて言い返してくる。
さらにムツっとして言い返そうとした所で
『いい加減にしな リムルル
まぁ着いて来るのは勝手だけど、自分の身を守るのは自分だからね。あたしを頼るんじゃないよ。
解かったらさっさと寝な。明日は早いよ。』
レラの叱咤が入った。
『は~い じゃもう寝るね おやすみ』
レラの叱咤に奥の部屋に向かったリムルルだったが、私に『べぇ』と舌を出して行ったのは流石だ。
『姉様 本当に大丈夫なの? なんだか、妙な胸騒ぎがするの…』
リムルルが奥に消えてからナコルルが心配気にレラに声を掛けて来た。
『リムルルはコンルが守るだろ、心配することないさ。』
ナコルルの心配気な表情とは裏腹にレラはいたって平然としていた。
『リムルルの事もだけど、姉様の事も心配で…』
レラの平然とした態度を見ても、ナコルルの不安は消えないようだった。
『リムルルやあんたの様に、あたしには守護精霊って奴が居ないからね。それが不安の原因かい?』
レラは怒りとも苦渋とも取れる複雑な表情を浮かべ立ち上がるとそのまま奥の部屋に向かった。
『別にそう言う事を言ってるんじゃ無いです。』
急に焦り出しだナコルルの方を一度見ただけで無言のままレラは奥に消えて行った。
次の朝早く、私達はナコルルに見送られながら出かけた。

丁度コタンの出口まで来たとき、つり竿を持ったヤンタムゥがやってくる所に出くわした。
『ようレラにリムルルじゃないか 珍しい組み合わせでこんなに朝早くから何処に行くんだ。』
ヤンタムゥはナコルルやレラと幼馴染で、まだ若いけど狩りの腕が確かなのだが、女性に対する態度が軽い
ので有名なコタンの青年だ。
『ヤンタムゥこそこんなに早くから何処に行ってたんだよ。』
切り返したのはリムルルだった。
『あぁ俺か。俺は釣りさ 夜明けの一番食いが良い時を狙って行ってたのさ。おかげでこの通りよ。』
そう言うと下げていた籠を差し出した。リムルルがその籠の中を覗くと十数匹のマスが跳ねていた。
『うわ~流石コタンの釣り名人 やるねぇ ついでにうちにも差し入れしといてよ』
その釣果に驚きながらも、ちゃっかりしているリムルルだった。
『あぁいいぜ 元々そのつもりだったしさ。後で届けといてやるよ。でっお前達はどこに行くんだ。』
とヤンタムゥが聞き返した。
『あたし達は、これから狼退治に行くんだよ。』
それに答えるリムルルの口調は、まるでお散歩にでも行くように軽い。
『そっかぁ、狼退治か あれだな最近コタンで噂になってる奴だな、頑張れよ・・・
っておい そんな軽く言う事じゃないだろ。たった二人、しかも女の子だけで狼退治なんて危なすぎる。
護衛で着いて行ってやるから、武器を取って来るまでちょっとここで待ってろよ。』
リムルルの軽い口調に納得しかけたヤンタムゥだったが、事の重大さに気付き急いで武器を取りに戻る為
駆け出そうとした時、それまで無言でリムルルとヤンタムゥのやり取りを傍観していたレラがヤンタムゥ
の背に向かって声を掛けた。
『護衛ってのは、強い奴が弱い奴を守る事を言うんだ。あたしより弱いお前が居ても足手まといなだけだ
すでに足手まといが一人居るんだ。これ以上居ても迷惑なだけだよ。』と
そうなのだ、コタンにはヤンタムゥを含め屈強で腕自慢の男達が何人も居るが、レラの剣技はすでにその
男達をも凌ぐ腕に成っていた。
流石にこれにはヤンタムゥも反論できなかった。
『足手まといだなんて、姉様酷い』
リムルルはしっかり反論したが、レラは気にも留めず
『あたし達が出かけたらコタンにはナコルル一人っきりになる。守るんならそっちを守るんだね。
リムルル行くよ こんな所でゆっくりしてるほど余裕は無いんだよ。』
そう続けると、さっさとヤンタムゥに背を向け森に向かって歩き出した。
『あっ待ってよう姉様~ じゃ差し入れお願いね、ヤンタムゥ』
ぐっと歯を食いしばっているヤンタムゥに笑顔で手を振ってからリムルルはレラの後を追って行った。

その日は、空が暗くなるまで森のあっちこっちを歩き回ったけど、狼のおの字も見つからなかった。
『姉様、今日はもう無理だよ。 明日にしようよ。』
最初に根を上げたのはリムルルだった。
『そうだね。仕方がない、今日はもう帰るか。明日はもうちょっと深い所まで行って調べてみようか』
レラもリムルルと同じ考えだったのか、その日は何も見つからないまま帰る事になった。

チセに着くとヤンタムゥが居た。そしてレラの顔を見るなり
『へへっしっかり言い付けは守ったぜ。』
と自慢気に言ってのけた。これには流石のレラも呆気に取られていた。


そして、狼探しを初めて何日か経った日
その日も手がかり無しのまま川辺りでお昼を食べている時のこと、川向こうの茂みがざわついた。
「レラ あそこに何か居る。」
茂みのざわつきに気付いた私はレラにそうっと声を掛けた。
『ああ、あたしも気付いてたよ。やっとお出ましかな。』
レラも気付いていたらしく、すでにその目線は茂みに向けられていた。
『えっ えっ』
リムルルはまだそれに気付いていないらしく、私とレラの顔を交互に見ているだけだった。
そうこうしている内に、茂みを割って影が姿を表した。その姿は私が今まで見たどの狼よりも大きく
毛の色も見たことが無い色をしていた。
『ぐるるぅ』
狼は低く唸りながら私達の方に近づいてくる。
迎え撃とうと対峙した時、私の前に立ちふさがる影が有った。
『ニタイカラペは下がってな。ここはあたしがやるよ。』
影はレラだった。すでに抜刀したマキリを構え、大胆に狼に近づいていく。
狼はゆっくりだが、しかし確実の近づいてくる。
ある一定の距離を残してお互いの動きが止まった。レラと狼の間で、空気が張り詰める。
私もリムルルも固唾を飲んで見守るしかない。
不意に川面で魚が跳ねた。
まるで申し合わせたかのように魚が跳ねた瞬間、レラと狼は同時に動いた。
お互い一気に間合いを詰めレラの刃と狼の牙が交差する。

『ギャン』
もんどりうって倒れたのは狼の方だった。見ると額から血を流している。
意識は朦朧としているが、死んではいないようだ。
『これで力の差が解かっただろ。解かったらさっさとこの一帯から出て行くことだ。
でないと、今度は命を貰うぞ』
倒れた狼にレラは近づきそう告げた。
それを理解したのかどうか、しかし狼の目からはすでに意識の光は消えていた。

『あっ姉様 腕から血が出てる大丈夫?』
戻って来たレラの腕に血が滲んでいるの気付いたリムルルが心配そうに声を掛けた。
『単なるかすり傷だよ。心配するほどのもんじゃないさ。
それよりも早く帰ってコタンのみんなを安心させるのが先だろ。』
リムルルの心配も余所にレラはさっさとコタンに向かって歩き出した。
『もう、こっちは心配してるんだから、少しぐらいは心配したかいがあったって思える返事をしてくれて
も良いじゃないか』
訳のわからない事をブツブツ呟きながらも急いでレラの後を追うリムルルだった。
「ねぇアレだけで大丈夫なの? レラだけを避けて居座りつづけるって事はないかな?」
そんなリムルルに苦笑しながらも気に成った事をレラに聞いて見た。
『ちゃんと自分は敗北したって目をしてたよ。大丈夫、本能から言ってもあたしの縄張りに居座り続ける
なんて考え難いよ。』

レラの報告で、コタンに安堵の空気が広がった。しかし、それは数日間だけの事だった。

レラが狼を倒して数日が過ぎたある日、再び狼に襲われる人が出始めた。
しかも、今度は不意打ちを掛けられることが多く、その為怪我人も増え、怪我の度合いも大きくなった。
何より皆を驚愕させたのは、前回と同じ狼だと言う事だった。
それを聞いたレラは、めずらしく感情も露に苦渋とも怒りとも取れる表情を浮かべ
『申し訳無い、今回はあたしの考えの甘さが招いた事。
この事はあたしが責任を持ってきちんとけりを着ける。』
怪我人達を前にそう言って頭を下げた。そしてその足で再び森へ入って行った。それもたった一人で
すぐさま私とナコルルが後を追った。
広い森といえど、匂いを辿れば追いつくのは容易い。すぐレラに追いついた。
『姉様、落ち着いて 責任を感じるのは解かるけど、単に森を走りまわっても何もならないのよ。
いつもの冷静な姉様ならそれぐらい解かるでしょ。』
コタンの人達を守れなかった事で冷静さを失い闇雲に狼を探しているレラを落ち着かせようとナコルル
は必死に訴えかける。
その訴えが通じたのか、レラの表情に落ち着きが戻って来た。
『そうだね ここは焦ったって何もならないんだよね。逆に冷静にならないと・・・
ありがとう、助かったよ』
落ち着きを取り戻したレラに安堵した時、風の中に覚えのある匂いが微かに混ざっている事に気付いた。
この匂いは間違い無く、あの狼の匂いだった。
しかし空には雨雲が立ち込め出している。雨が降れば、この匂いも消えてしまうかもしれない。
「ナコルルにレラ あの狼の匂いがする。今なら間違い無く追えるわよ。」
私のその言葉に二人は目を合わせ、頷きあった。
そして私を先頭に匂いを辿って狼の追い出した。
匂いの元にはすぐに辿りついた。そこは草木に隠れた洞窟だった。
「間違い無い あの狼はあそこに居るわ。 でも、なにか別の匂いもしてるんだけど」
しかし、レラは私が言い終わる前に洞窟に向かって
『出て行けと言ったはずだ。出て行かないのなら、命を貰うとも言ったはずだ。』
と怒声を張り上げていた。
しばらくすると、あの狼がのそっと姿を表した。
その目には、確実にレラに対する怯えの色が浮かんでいた。しかし、剣を構えたレラに対し一歩も引く
素振りを見せない。その姿は何かを守って居るようでもあった。
「ナコルル、なんだかあの狼変だよ。何かを守って居るようだよ。」
横に居たナコルルにそう声を掛けてみたが、
『何かを守って居るって どう言う事? まっまさか・・・』
ナコルルがはっとしてレラを見たとき、まさにお互いに突っ込んで行くところだった。
『止めて レラ姉様』
ナコルルの絶叫も空に轟いた雷鳴にかき消された。
そして雷光の中二つの影が交差する。雷光が収まった後、交差前と位置が入れ替わった二つの影。
しばらくそのままだったが、血を吐き出して倒れたのは狼の方だった。
腹を大きく切り裂かれた狼は、激しく息をしていたが、すぐにその息も途絶えた。
『終わったよ。』
レラのその言葉と同時に空から激しい雨が降り出した。
激しい雨にも関わらず、ナコルルもレラも何かを洗い流すかのようにその雨を避け様とはしなかった。
不意に洞窟の前の草木が揺れたかと思うと中から一匹の狼の子供が這い出して来た。
その子狼は母親の死が解かるのか『ク~ン ク~ン』と悲しそうな声で鳴き母親の死骸に擦り寄っていた。
『そんな子供が居たなんて・・・怯えながらも向かって来たのは子供の為だったなんて・・・』
それには流石のレラも絶句したようだった。
「左目に大きな傷が付いている。恐らく群れの中で勢力争いが有って、子供が巻きこまれたんだろうね
もしかしたらそれが原因で群れから逸れたのかもしれないわね。」
子狼の左目は大きな傷と共に失われている。
『だから、あの狼は必死になってこの子を守ろうとしたんだね。
こんな小さい子じゃまだ一人じゃ生きていけ無いから、必死になって・・・
でも、もうこの子を守るものは居なくなったんだ。一人じゃ生きていけないなら・・・』
そう言うとレラはフラフラっと子狼に近づいて行った。
近づくレラに気付いた子狼は、それが自分の母親を殺した相手だと解かっているのか牙を剥き唸り声を上
げながら威嚇し出した。
それでもお構いなしに手を差し出されたレラだったが、子狼はその差し出された手に噛みつき引き千切ら
んばかりに激しく首を振る。子供と言っても牙はしっかり生えているので、レラの手からは血が噴き出し
見る見る手の平を赤く染め上げて行く。
その苦痛に耐えながらもレラは、空いた手で子狼の撫でながら
『ごめんね。お前みたいな子供を連れているって解かってたら、殺したりしなかったのに・・・
子供を守る為に戦っているって解かってたら、助けてあげることも出来たのに・・・
謝って済む事じゃないのは解かってるけど、あたしにはこれしか言えないから、ごめんね、ごめんね』
こんな一面も有ったのかと驚くほど、普段のレラから想像も付かないほどか弱く泣き崩れているレラに
私はレラの奥底に有る優しさを感じることが出来た。
雨に混じってレラの涙に打たれていた子狼もそんなレラの優しさを感じ取ったのか、何時しか噛みついた
手を離し、傷口を舐め出していた。
『姉様 この子解かってくれたみたいよ。』
ナコルルの言葉に子狼の態度が変わった事に気付いたレラは、愛しいそうに子狼を抱き上げた。
抱き上げられた子狼もまるで母親に甘えるようにレラの顔を舐めていた。
『これからはあたしがお前の母親変わりに成ってお前を守ってやる。
それがあたしに出来る罪滅ぼしだ。』
そうレラが心に決めた時、その心を表すかの様に空に青空が広がっていた。
母狼を丁重に埋葬した後、私達は新しい家族を連れてコタンへの帰路についた。
# by nero_160r | 2008-07-10 05:10 | 風が守りし者(ノベル)