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CG集とナコルル中心の創作ノベル


by nero_160r
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第壱話「宿命を背負った双子」

時は3月
アイヌモシリでも北方に位置する小さいコタンで若き村長アガダタの妻ユマリが身篭った。
その事で1つの騒動が起こっていた。
普通ならば祝い事に成る筈の事がなぜ騒動の原因に成っているのか?
ユマリの状態からすると、出産予定は10月~11月 丁度、冬の始まる時期である。
アイヌモシリの冬は厳しい、生まれたての赤ん坊には過酷な季節なのだ。
その為、出産は冬の終わりになるように契りの季節は村の掟で決められている。
そうなのだ、村長自ら掟を破ったのだ。

掟は神聖である。いや、神聖で無ければならない。
その掟を破ったと有れば、それ相応の報いを受けなければならない。
本来、掟破りの報いはコタンからの追放だが、今回はそう簡単には行かない。
と言うのは、アガダタを追放すれば当然ユマリも一緒について行くだろう。
冬も終わりに近づいているとはいえ、まだまだ厳しい日々が続く・・・
そんな時期に妊婦を村の外に追い出すのは、余りにも危険だ。
親がいくら掟破りとは言え、生まれてくる子供には何も罪は無い。
この二人の処罰に頭を抱えていた長老達だったが、処罰の決定をしたのは他ならぬ
アガダタとユマリの二人だった。

『神からの啓示が有った。俺たちの間に生まれる子は大きな宿命を持って生まれてくる。
 冬の厳しさに負ける様では到底立ち向かえない宿命らしい・・・
 つまり、この子は生まれながらにして試練を受けねば成らないのだ。』
集まった長老達に向かってアガダタは語った。
そして、ユマリが
『しかし、掟を破った事は事実・・・その報いは受けなければ成りません。
 アガダタは村に必要な人です。ですから、私がアガダタの分まで報いをお受けします。』
と続けた。
その言葉に驚いたのは長老達だった。
アガダタがユマリの分まで報いを受けると言い出すのならば解かる。
身重なユマリを思って処罰を悩んでいたのだから・・・アガダタならば、一人で冬を越す
能力を持っている。だから、追放期間も1年とすれば来年のこの時期には帰ってこれる。
そうすれば、親子三人で暮らす事も出来る。
そう言う考えから、長老達はアガダタが一人で報いを受けると言い出すのを持っていたのだ。
所が言い出したのは逆にユマリの方だった。
この時期、妊婦か村の外で暮らすことがどんなに危険かを長老達が説明をしたが、
『この子は過酷な未来を生きていかねば成らない宿命を背負って生まれてきます。
 そんな宿命を背負わせてしまった母親である私も試練を受けねばこの子に申し訳ありません。』
目線を逸らすことなくきっぱりと言い切るユマリに長老達は何も言えなく成っていた。
一方アガダタはユマリの言葉を無言で聞いたいたが、その目には苦渋に満ちた光が宿っていた。
かくして、ユマリは裏山の中腹辺りにある岩牢に幽閉される事となる。

ユマリの幽閉が決まった時、さすがに村人から非難の声が上がった。
しかし、それを抑えたのもアガダタとユマリだった。
『心配して頂いてありがとうございます。でも、大丈夫です。ご心配なく』
と言うユマリの笑顔と
『掟破りの汚名で蔑まれても良い。ユマリと子供が帰って来る場所を守って居たい』
と言うアガダタの表情に何かを感じたのか、村人たちは二人の処分を受け入れた。

アガダタは長老の任を解かれること無く今まで通り村の祭事をこなす事になる。
以前に比べより精力的に活動をするようになるが、表情を崩すことが無くなっていた。
そんなアガダタに、村人達は何も言わずに今まで通りに接するように成っていた。


季節は巡り、時は10月
初雪は例年よりも早くすでに山の中腹辺りまで白い衣に覆われている。
今年は6月初めまで雪が残るなど、何時もの年に比べ雪が異常に多い・・・
そんな中、ユマリの幽閉は続いていた。
食べ物は最低限とはいえ、村人が運んでくれているおかげで飢えは凌げている。
だからと言って身重なユマリにとって辛い事には変わりは無い。アガダタと会えれば少しは
癒されるのだろうが、二人が会うのを禁じたのは他ならぬ二人なのだ。
今は日に日に大きくなっていくお腹を摩り、中の赤ちゃんが動いていることを確認するのが
唯一の楽しみに成っている。

『る~るる~ら~・・・くっうあぁぁ』
何時も通りお腹を摩りながら詩を聞かせていた時、いきなり下腹部に激痛が走った。
『うあぁ・・・くぅ~ そ・・ろそろ・・・なの・・・』
直感的に生まれると解かったが、幽閉されている身では誰かが来るまでどうしようもない。

その頃、コタンでは・・・
『アガダタ~居る~?』
一人の女性がアガダタを訪ね村長の小屋を訪れていた。
女性の名はオムルル ユマリの幼馴染にして親友でもある。
『なんだ、オムルルか 何の用だ?』
苛ついた口調でアガダタが顔を出す。
『うん、あのね今日あたしがユマリに食事を運ぶ役なんだけど、一緒に来てくれないかな?』
アガダタの口調にちょっと引きながらも、そう言葉をかける。
それを聞くや辛そうに顔をしかめ
『お前も知っているだろ、俺とユマリは・・・』
『二人が会うのを禁じられている事は知ってるわ。
 でも、なんだか今日は一人で行っちゃいけない気がするの・・・
 あたし一人で行くと・・・なんて言うか・・・何かが間に合わないような気がして・・・』
さらに苛ついた口調で断りかけたアガダタの言葉を制止しオムルルが続けた。
オムルルのその不安げな表情にアガダタ自身も朝から抱いているモヤモヤしたわだかまりと
一緒の物をオムルルも抱いているのだと理解した。
『解かった、一緒に行こう。ただし、俺はユマリと会う訳には行かないから近くまでだぞ。』
『良かった。じゃ、食事の用意をして来るわね。』
アガダタが一緒に行ってくれることに成り安心したのか、明るい表情に成り食事の用意の為に
自分の小屋に戻って行った。
そんなオムルルを見送った後、アガダタも準備を始めた・・・

食事の準備はすでに出来ていたのか、早々にオムルルが戻ってきた。
そして、二人揃ってユマリの岩牢に向かって行った。
途中、アガダタが帯刀している事に気づいたオムルルが理由を尋ねるとアガダタ自身も自分が
帯刀している事に驚いていた。
『久しぶりにユマリの顔を見れるから焦ってたんでしょ』
とからかい口調のオムルルに
『近くまで行くだけで会いはしない』
憮然と答えるアガダタだった。
『はははっ  でも、今日は良い天気ね。ユマリも日光浴ぐらいしたいだろうなぁぁ』
そんなアガダタに笑いを漏らしたオムルルだったが、ふと山の中腹を見上げ呟いていた。

山の天気は変りやすいとは言え、それは余りにも唐突だった。
森を抜け山に入るとにわかに空を黒い雲が覆い始め、雪がちらつき出したのだ。
そして岩牢までもう少しと言う所まで来たときには、すでに吹雪に成っていた。
『これ以上は危険だ。引き返したほうが良い』
風に飛ばされそうなオムルルを支え引き返そうとするアガダタだったが、オムルルは応じない
『一人じゃだめって思ったのはこの為だったのよ。
 だとすると、今日は絶対にユマリに会わないといけないの気がするの。
 だからお願い、アガダタ連れて行って。』
オムルルの激しい口調と真剣な表情に驚いたアガダタだったが
『解かった。お前のその「気がする」には昔っから助けられたからな』
ニッと笑いオムルルを吹雪から守るように支えながら岩牢に向かって歩を進めた。

程なくして岩牢に到着した。
岩牢自体は洞穴の中に木で格子を作った物で、中まで雪は吹き込んでいなかった。
洞窟の入り口付近でアガダタが待ち、オムルルが奥の岩牢に向かった。
『ユマリ~オムルルよ。食事を持ってきたんだけど・・・大丈夫?』
声を掛けながら近づいていくが返事が無い。
心配になって格子に駆け寄り中の様子を確認すると、蹲ってうめき声を上げているユマリが目
に入った。すぐさまアガダタを呼び寄せる。
『おい、ユマリどうしたんだ?大丈夫なのか?』
駆け付けたアガダタが声をかけると、ユマリはうっすらと目を開けこちらを見た。
そしてアガダタに気づくと
『生まれるの・・・』
と小声でつぶやくように言った。
『陣痛が始まったのね。
 大変早くコタンに連れ帰らないとこんな所じゃ子供もユマリも危ないよ』
ユマリの状態に気づいたオムルルは格子を開けようとしたが入口は綱でがっちり括られている
素手でどうなる物ではない。
『どけっオムルル』
振り返るとがマキリを構えたアガダタがそこに居た。
オムルルが横に避けると同時にアガダタはマキリを一閃させ綱を叩き切った。
そしてすぐさま牢の中に入りユマリの様子を確認する。
ユマリの顔色は真っ青で意識も朦朧としていた。そして体がかなり冷えている。
『やばい、かなり消耗してるな。オムルル、先に戻ってユマリの状態を報告して出産の準備を
 整えといてくれ。俺もすぐに後を追う。』
『う うん、解かった。』
オムルルはアガダタの言われるままにコタンに向かって吹雪の中に飛び出して行った。
アガダタは自分の着ていた物をユマリに着せ、少しでも防寒を高めようとしていた。
『アガダタ・・・』
少しの温もりで意識が戻ったのか、ユマリはアガダタに笑いかけた。
『辛い想いをさせて悪かったな。今からコタンに戻るぞ、少し寒いだろうが我慢してくれよ。
 そしてコタンに着いたら元気な赤ちゃんを生んでくれ』
ユマリを抱きかかえ笑みを浮かべて言うと
『大丈夫よ。あなたの腕の中はどんな所よりも暖かいもの』
アガダタの胸にもたれ掛るように体を預けユマリは幸せそうな笑みを浮かべて答えた。
『がんばってくれよ』
そんなユマリに小声で一声掛け、アガダタは吹雪の中に走り出して行った。

オムルルの報告を受け、ユマリを受け入れる準備の為に村長の小屋に人が集まっていた。
そんな中ユマリを抱きかかえたアガダタが小屋に掛け込んで来た。
すぐさま服を脱がしお湯で全身を温め始める。
陣痛も激しくすでに破水が始まっていたが、ユマリの消耗が激しく思うように事が運ばない。
子供の頭が見えた時は、ほとんど夜明け近くに成っていた。
『もう少しだよ。がんばるんだ、ほらっ 力んで・・・』
産婆の言葉に併せユマリが力むと、とうとう子供の全身が出てきた・・・
『・・・』
その姿を見た産婆は絶句した。
黒い・・・全身真っ黒な子供だったのだ。
『もう一人居ます』
ユマリの様子を見ていた別の産婆が声を上げた。
そして、次に生まれた子は逆に真っ白な子供だった。
『黒いお子と白いお子 これにはどういう意味があるんじゃ』
まったく対照的な子供が生まれた事に不吉な思いが過ぎった・・・
が、すぐさま悲痛な声にかき消された。
『ユマリ・・・ユマリ~』
二人目を産み落とした後、ユマリはひっそりと息を引き取った。
消耗しきったユマリの体は二人も生むことに耐えられなかったのだ。
しかし、二つの新しい命を生めた喜びなのか、その死顔には笑みが浮かんでいた。

生まれた二人の子供は、兄(白いお子)エシテ 弟(黒いお子)テシテと名付けられ
アガダタの元、未来に待ち受けている宿命に向かって歩み出すことに成る。
by nero_160r | 2008-05-08 01:01 | 魔に魅せら者(ノベル)